ブライアン・イーノとジャー・ウォブルによる1995年作品「スピナー」です。ジャケットにはそのものずばりスピナーが写っています。何とも素っ気ないジャケットが中身のサウンドを作る二人の職人気質を物語っているように思われます。

 本作品の出発点はサウンドトラックです。イーノはデレク・ジャーマン監督の作品「グリッターバグ」のサウンドトラックを制作します。1960年代後半から80年代後半にかけての20年間に撮りためた8ミリ画像を編集した映画だということです。

 イーノは音楽のほとんどを自分のスタジオで夜一人で制作しています。映画はちゃんと公開され、ビデオも発売されており、その意味では音源はすでに発表されているわけですが、イーノはそれに加えてサントラ・レコードを制作することを考えました。

 ところが、いざ制作にかかると、音楽の大部分が映像抜きには意味をなさないことに気がつきます。そこで、映像との関係を一旦断ち切ることとし、サントラ用に選んだ音源をジャー・ウォブルに送って彼なりに料理してもらうこととしました。

 なぜウォブルが選ばれたのかは定かではありませんが、送られてきたウォブルは当初困惑したと言います。「一緒にスタジオ入りしてレコードを作ればいいじゃないか」。もっともです。片手を縛っておいて、自由に作ってくれとお願いするようなものだとも言ってます。

 しかし、やがてこの試みに深い深い「カルマのレベルで」意義を見出したウォブルはやり過ぎないように注意しながら、これまた自宅で作業を重ねていきます。その結果が本作品です。イーノはウォブルの作業中のサウンドをまったく聴いていないそうです。

 その意味では前半はイーノだけ、後半はウォブルだけが作業に当たったことになります。本作品にはカンのヤキ・リーベツァイトを始め、何人かのゲストが参加していますけれども、彼らは恐らくはウォブル側の作業に参加したものと思われます。

 ウォブルはこの頃アルヴォ・ペルトなどの「聖なるミニマリスト」たちの音楽やエストニア・ラトビアの教会音楽を聴いていたそうで、本作のサウンドを思い浮かべる際のヒントになります。パブリック・イメージ・リミテッドとは少し違います。

 ウォブルはまたこの頃自宅付近を散歩することを日課としており、本作品をその散歩のお供に最適な形に仕上げています。イーノもこれには大いに賛同しています。こんなエピソードが出てくるあたり、二人は本作品の出来栄えにいたく満足したものと思われます。

 ウォブルがイーノの「ミュージック・フォー・フィルムズ」的サウンドに全く手を加えていない曲が3曲あります。一方で、ベースのみならずドラムやギター、それに環境音などを加えた豪華なサウンドに仕上がっている曲もあります。しかし全体はしっかり一続きです。

 「凍えるようなアンビエントと精神地形学的なファンクの融合」とはレーベル側の評です。二人のサウンド履歴を考えると予想の範囲を大きく超えるものではありませんが、さすがは大物二人のサウンドは安定の面白さです。安心して聴けるちょっといい感じのアルバムです。

Spinner / Brian Eno/Jah Wobble (1995 All Saints)