言わずと知れたモンスター・アルバムです。1977年2月に発売されると、31週間も全米1位に君臨し、全世界で4000万枚を売り上げるという記録的なヒットとなりました。2020年の再発でもトップ10入りしたという息の長いアルバムでもあります。

 フリートウッド・マックの11作目「噂」は商業的な成功ばかりではなく、2020年に発表されたローリング・ストーン誌のオールタイム・ベスト500でも7位とその筋での評価も高い。グラミー賞の最優秀アルバム賞にも輝いています。

 ところが日本ではまるで無視されています。発表当時、このアルバムはイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」と覇を競っていたのですが、日本では圧倒的にイーグルスが人気でした。また、たとえばミュージック・マガジン誌ではオールタイム・ベスト200にすら入っていません。

 パンクの足音がだんだん高くなっていた時代ですけれども、大多数の大衆にとって「噂」こそが当時を代表する音なのでした。当時、ソフト・ロックと言われていたジャンルの最高峰に位置するアルバムは特に米国人にとっては全曲が耳に馴染んでいるという作品です。

 前作から1年半、フリートウッド・マックは1年以上をかけて本作を制作しています。これまでの彼らのペースから考えるとかなり長い時間がかかっています。大成功した前作を超えなければならないというプレッシャーかと思いましたが、そうではないようです。

 すでに本人たちの口からも何度も語られているため、有名な話ですけれども、この間、クリスティンとジョンのマクヴィー夫妻、リンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスのカップルというバンド内の二組のカップルが破局を迎えました。

 ミック・フリートウッドも過去を引きずって離婚騒動中だったということで、バンド内の人間関係のごたごたは頂点に達していました。前作の成功のプレッシャーを感じているどころの騒ぎではなかったわけです。よく解散しなかったものです。

 エリック・クラプトンも語ってましたが、大変につらい状況に直面した時、生粋のミュージシャンは音楽をやるのだそうです。何もやる気がしないという人はアーティストには向いていません。マックの面々も自己に向かい合い、音楽を続けることで難局を乗り切りました。

 こういう時には邪心がなくなるのでしょう、純粋に音楽を追及することでピュアな音楽が生まれます。本作品などはまさにその賜物です。フリートウッド&マックの背骨を頼りに、バッキンガム、ニックス、クリスティンの三人がそれぞれ純度の高いソフト・ロックを作り出しています。

 キラキラ・ポップのバッキンガム、ブリティッシュ・トラッドを感じさせるクリスティン、どすの利いた不思議な魅力のニックスの三者三様のサウンドが、自分達の状況を素直に表した歌詞とともに絶妙なバランスを作りあげています。とても丁寧に作られた名盤です。

 本作からはニックスの「ドリームス」が全米1位に輝いた他、「オウン・ウェイ」、「ドント・ストップ」などの大ヒットを生んでいます。日本の洋楽界わいはジャズやソウルに寄っていない、こうしたソフト・ロックを評価しませんでしたが、密かに愛好していた人は数多くいたはずです。

Rumours / Fleetwood Mac (1977 Warner)