同じくセルフ・タイトルだったデビュー作と区別するために、「ホワイト・アルバム」と通称されるフリートウッド・マックの10枚目のスタジオ・アルバムです。通称があるということは、このアルバムが大そう売れたということです。ベスト・セラーにしてロング・セラ―です。

 フリートウッド・マックは前作発表後にまたまたフロントマンの交代がありました。バンド内のごたごたを何とか耐えていたボブ・ウェルチがとうとうバンドを去ってしまったんです。ミック・フリートウッド、ジョンとクリスティンのマクヴィー夫妻の三人が残されました。

 普通のバンドであれば解散も考える事態でしょうが、フリートウッド・マックにとっては何度も通ってきた道です。おまけにバンド名を巡って裁判中でしたから、名前を変えるわけにもいきません。楽天的なミックは新たなギタリストを探します。

 ミックは本作品の制作に使うためのスタジオを探すためにロサンゼルスを訪問し、そこで友人のプロデューサー、キース・オルセンに彼がプロデュースしたバッキンガム・ニックスのサウンドを紹介されます。ウェルチ脱退前の出来事です。

 そのサウンドに強い印象を受けたミックは、ウェルチ脱退に直面すると、彼らのサウンドを思い出して声をかけることにしました。最初はリンジー・バッキンガムだけをギタリストとして採用するつもりでしたが、リンジーはスティーヴィー・ニックス抜きではだめだと主張します。

 結果として、ニックスをボーカリストとして迎えることで、新生5人組フリートウッド・マックが誕生します。幸いなことにマクヴィー夫妻も二人を気に入り、5人は稀有な化学反応を起こして、少なくとも商業的にはフリートウッド・マックの黄金期が到来することになりました。

 マックらしく、バッキンガムとニックスは最初から曲作りを任されます。このアルバムではクリスティンが4曲、バッキンガムが2曲、ニックスが3曲、カバーが1曲、クリスティンとバッキンガムの共作が1曲という構成です。いかにもマックです。

 クリスティンは二人の加入によって大きな刺激を受けます。二人のアルバムを聴いて「ソングライターとしての腕を磨かなければならないと感じたわ」ということで、本作では4曲のシングル・カットのうち3曲を手掛ける大活躍ぶりです。

 一曲目の「マンデー・モーニング」はバッキンガムの曲で、比較的細くて高い声のボーカルがとてもアメリカンなポップスぶりを発揮しています。一方、ニックスの方が「リアノン」などでどすの利いた低めの声を聴かせて、これまたマックになかった新鮮な色合いを添えています。

 3人の個性を束ねているのはもちろんフリートウッド&マックのリズム隊です。バッキンガム・ニックスはアルバムを出していたもののぱっとしませんでしたが、彼らと出会うことで大化けしました。世の中には奇跡というものが起こるものです。

 本作品は発売から1年以上を経て全米1位となり、トップ10を37週、トップ40だと15か月以上続けるという大ブレイクとなりました。何ということのない粋なポップ・ロックですけれども、するめのような癖になる味わいをもった不思議なアルバムです。

Fleetwood Mac / Fleetwood Mac (1975 Reprise)