ポスト・パンクの重要バンド、ア・サーテン・レイシオが12年ぶりに新作を発表しました。その名も「ACRロコ」です。何でこれでACRLOCOと読めるのか考えてみれば不思議なのですが、しっかりACRLOCOと読めるフォントをあしらったジャケットに気合を感じます。

 ACRは2019年にデビュー40周年を記念するボックス・セットをリリースしています。自分達の過去40年間の仕事に向き合った結果、「そのことが我々のイマジネーションに火をつけてくれたんだ」とマーティン・モスクロップは語っています。

 ACRの核となるラインナップは最初期から不動の三人、マーティン、ジェズ(ジェレミー)・カー、ドナルド・ジョンソンです。本作ではこの三人に長年のツアー・メンバーでもあるトニー・クイグレー、デニス・ジョンソン、マット・スティールが加わっています。

 さらにゲストとして2018年デビューのポスト・パンク・ダンス・デュオ、シンク・ヤ・ティースの二人、マリア・ウゾーとゲンマ・カリングフォード他、数名が招かれています。ゲストの役割は主にボーカルです。特にマリアとゲンマの女声ボーカルがいいアクセントになっています。

 本作品はカー曰く「これまで自分たちがやってきたすべての頂点」です。彼らが経てきたさまざまな方向性とスタイルを蒸留したような作品だとレーベルは補足しています。さすがに過去40年を振り返った直後の作品だけのことはあります。

 彼らは元マガジンのバリー・アダムソンやシャーラタンズなどのベテラン・アーティストのために過去作品をリワークしているそうで、そのためにスタジオ入りしてメンバーの絆を深めること
となり、グルーヴを取り戻したんだとも語っています。

 カーに言わせれば、「ぼくたち三人のジャム演奏がすべてのベースになっていて、一度グルーヴが戻れば、誰もぼくたちを止められない」。マーティンなどは18歳に戻った気分だと嬉しそうに話しています。久々にスタジオ入りして大変楽しかったということがよく分かります。

 そうして生まれた全10曲は、ACRのエッセンスを詰め込んだファンク・サウンドが全開です。さすがにデビュー当時と比べると、40年間のテクノロジーの進化のせいで、音が格段に良くなっています。さすがに洗練されたACRに少し戸惑います。

 先行シングルは「ヨ・ヨ・ギ」です。代々木駅のアナウンスをサンプリングしたテクノ・ファンクで、まるでヴェイパー・ウェイブ・ミーツ・クラフトワークな曲になっています。こんなお洒落でいいのかとの想いが一瞬頭をよぎりますが、こちらも頭を現代に戻さねばなりません。

 ジョンソンの重いドラムを中心に、生音にこだわった骨太のサウンドがぶきぶきいう構造はいかしつつも、ゲストを含めたボーカルの比重が高まっており、武骨さの中にも華やかさがほのみえてきます。ACRも良い歳をとってきたものです。

 英国の後のバンドに多大な影響を与えたとされるACRだけに、この作品での復活を高く評価する声が満ちています。1980年代ポスト・パンク・ファンク・サウンドの主が元気に活躍しているのは確かに大変うれしいことです。

ACR Loco / A Certain Ratio (2020 Mute)