「神秘の扉」という邦題は言い得て妙ではありますが、原題の「ミステリー・トゥ・ミー」と同様に、ジャケットの絵との脈絡がまるでよく分かりません。そこを指してミステリーと言っているのでしょうか。フリートウッド・マックのジャケット・センスはいつも意表をついて面白いです。

 ミステリーは実は冒頭の一曲「エメラルド・アイズ」に出てくる一節ですから、種明かしをしてみれば何ということはありません。エメラルドの瞳がミステリーだという、比較的べたな歌の世界です。ボブ・ウェルチによる見事な一丁目一番地ソングです。

 本作品は前作からわずか半年後に発表されたフリートウッド・マックの8枚目のスタジオ・アルバムです。本作の制作中にボーカリストとして前作前に採用されたデイヴ・ウォーカーがバンドを去りましたから、マックは5人組となりました。

 毎回何かとメンバーに異動のあるマックは、またアルバム毎に中心人物が違うという面白いグループでもあります。本作品ではバンドにも慣れたボブ・ウェルチが明らかに中心的な役割を果たしています。ウェルチ節が全開です。

 揺れるようなギターの壁に彩られた「エメラルド・アイズ」を始め、シングル・カットされた名曲「ヒプノタイズ」など、全12曲の半分がウェルチ作品です。珍しいジョン・マクヴィーとボブ・ウェストンとの共作、ウェルチがボーカルをとるカバー曲を含めると実に8曲です。

 それに「キープ・オン・ゴーイング」では、これまたマックでは珍しいことに、ウェルチ作曲をクリスティン・マクヴィーが歌っています。これも余裕の表れでしょう。アルバム全体を通してウェルチの貢献はとても大きいものがあります。

 一方、本作品に封入された歌詞カードには「グッド・シングス」なる曲が「フォー・ユア・ラヴ」の代わりに記載されています。これは最後の最後で曲が差し替えられたのだそうです。ウェルチの曲ですが、むしろにウォーカーに似合いそうな異質な曲です。

 やはりバンドのリーダーはドラムのミック・フリートウッドとベースのジョン・マクヴィーなのでしょう。フロントマンの入れ替わりが激しくなって、俄然二人が頑張っているように思います。これまで以上にドラムとベースが目立つようになっています。

 異質なのは共作曲「フォーエバー」で、ピコピコ・ドラムマシーンを使った面白い曲です。フリートウッドの実験精神躍如たるものがあります。この曲にはジョンが共作名義に名を連ねているのも珍しいことです。リズム隊がリーダーというのは本当に面白いです。

 カバー曲はヤードバーズで有名な「フォー・ユア・ラヴ」で、10ccのグレアム・グールドマンの曲です。最後の最後で差し替えられただけあって、比較的軽めのアレンジでさくっと演奏しており、マックの職人芸集団ぶりを発揮しています。

 本作はポップな持ち味と職人芸的に構築されたサウンドが一体となっていて、相変わらずの力作です。米国では67位とこれまた健闘しています。最終的にはゴールド・ディスクに輝く中期マックのちょっと素敵な作品の一つとなりました。

Mystery To Me / Fleetwood Mac (1973 Reprise)