ダーク・アンビエント、ドローン、ドゥーム。昔と違って、ジョエル・ジラルディーニの作る音楽を形容する言葉は豊富に存在します。ということは、こうした音楽を受容するファンの層も厚く、それにこたえる作り手の数も多いということです。

 ジラルディーニはスイスのチューリッヒを拠点に活動するアーティストで、実験的なギタリストであり、サウンド・デザイナーであると紹介されています。彼の活動の幅は広く、ドゥーム・メタル・バンド、ランド・オブ・ザ・スノーの一員でもあることが特筆されます。

 さらに、バレー・チューリッヒや有名なダンサーとのコラボレーション、ノイズ・インダストリアル・デュオのムロ・ムトの片割れでもあります。ギターが弾けて、サウンドがデザインできればコラボレーションの幅はとにかく広がるものです。

 本作品はジラルディーニのソロ作品です。彼のソロは、ライブ・ルーピングと即席作曲技術を駆使したものだとのことです。インプロビゼーションではなく、インスタント・コンポジションの言葉が使われているのは、衝動のギタリストではないということなのでしょう。

 ライブ・ルーピングというものを初めてステージで見た時にはとても驚きました。私が印象に残っているのはジャズ・ベーシスト、リチャード・ボナの演奏ですけれども、少しずつフレーズが足されていって、曲が成長していくさまは圧巻でした。

 昔ならば、多重録音を使って制作するしかなかったわけですが、ライブ・ルーピングを使うと実際に演奏しながら一人オーケストラが出来てしまいます。ジラルディーニのようなアーティストにとってはまさに理想的なテクニックであると思います。

 本作品はタイトル通り、宇宙に思いを馳せたコンセプト・アルバムです。各楽曲の題名もすべて宇宙にちなんでいます。中でも「アポロ11号」に「スプートニク」とくれば、私の世代の宇宙少年の心は沸き立ちます。偉業を前に宇宙に思いを寄せた思い出がよみがえる。

 ジャケットのモノクロ写真は、アポロとソユーズのランデブーの様子を写した写真です。冷戦時代に宇宙でだけは米ソが共同歩調をとった出来事として記憶に新しいです。このランデブーも固唾をのんで見守っていたことを思い出します。

 サウンドは誰しもが宇宙空間を想像するダークなアンビエント・サウンドです。ギタリストのアンビエントらしく、時おりギターらしいサウンドが聴こえてきますけれども、基本的にはドローン・サウンドが中心となっており、約1時間にわたる宇宙旅行が楽しめる仕掛けです。

 クラウス・シュルツェや初期タンジェリン・ドリームを思わせるサウンドスケープですけれども、サイケデリックな雰囲気が薄いところがジラルディーニの特徴です。インナー・スペースではなく、アウター・スペースに向かって開かれた音楽です。

 レーベルはイタリアのゼロK、実験的なアンビエント作品を中心にリリースするアンエクスプレインド・サウンドの一員です。アルプスの山の中に、こうしたサウンドが栄えているというのもとても面白いものです。山中の禅修行に最適かもしれません。

The Age Of Space / Joel Gilardini (2020 ZeroK)

ライブの模様です。