「ペンギン」はフリートウッド・マックのマック、ジョン・マクヴィーのオブセッションです。前前作「フューチャー・ゲーム」では自己紹介写真にペンギンをもってきていました。動物園では何時間もペンギンを見ているのだそうです。満を持してタイトルにもってきました。

 フリートウッド・マックの7枚目のスタジオ・アルバムには前作で大活躍していたダニー・カーワンの姿が見当たりません。前作後のツアー中に解雇されたのだそうです。ステージ恐怖症だったとか、他のバンドと喧嘩になったとかいろいろと言われています。

 フロントマンを解雇するとは実にマックらしいです。後任にはブルース歌手ロング・ジョン・ボールドリーのバック・バンドにいたボブ・ウェストンが起用されました。ボールドリーのバンドと言えばかつてはエルトン・ジョンがいたことでも有名です。

 さらにマックにはボーカリストとしてデイヴ・ウォーカーが起用され、フリートウッド・マックは6人組となりました。ウォーカーはフリートウッド・マック、チキン・シャックと並ぶ三大ブルース・ロック・バンドのサヴォイ・ブラウンに在籍していた人です。

 クリスティン・マクヴィーが元チキン・シャックですから、ウォーカーの加入で三大ブルース・ロック・バンドがめでたく合体したことになります。もともと1960年代のブルース・ロック・シーンにいた三者ですから仲の良いライバルだったのでしょう。

 その事情に鑑みるとウォーカーの参加はごくごく自然なことです。しかし、フリートウッド・マックは特にボブ・ウェルチ加入以降、もはや典型的なブルース・バンドではなくなっていました。恐らくフリートウッド&マックの二人はそのことに自覚的ではなかったのでしょう。

 結果的に、ブルース魂あふれる頑固なボーカリストであるウォーカーはまるでマックに合いませんでした。結果的に本作では珍しいモータウンのカバー曲「ロードランナー」と自作の「デレリクト」の二曲に参加しているのみです。

 リズム隊を核として個性豊かな複数のフロントマンが曲を作って歌うという彼ら独自のスタイルからすれば合う合わないもないのですが、ウェルチとクリスティンの作り出す柔らかでポップなスタイルとは確かに毛色が違います。力強いですけれども。

 それに比べるとウェストンは控えめながらカーワンの穴をしっかり埋めています。クリスティンの「ディド・ユー・エヴァー・ラヴ・ミー」でコーラスも聴かせてなかなか馴染んでいます。ウェルチとクリスティンの作り出す世界との相性は結構なものです。

 本作ではフリートウッドとジョンのリズム隊が多彩な音色を聴かせるのも一つの魅力です。ウェルチの傑作として知られる「ナイト・ワッチ」でのジョンのベースなどはとても素敵です。なお、この曲では元リーダーのピーター・グリーンがギターで参加しているそうです。

 この作品は英国ではヒットしていませんが、米国ではこれまでで最高位につけています。後の成功に比べると分が悪いですが、全米49位ですから喜ぶべきヒットです。カーワンの不在を頑張って埋め合わせた力作として記憶されるアルバムです。

Penguin / Fleetwood Mac (1973 Reprise)