「アナザー・デイ・オン・アース」はブライアン・イーノのソロ名義のスタジオ・アルバムとしては1997年の「ドロップ」以来、8年ぶりとなります。しかも、この作品は1978年の「ビフォア・アンド・アフター・サイエンス」以来、25年ぶりの歌ものアルバムです。

 「全世界が待ち望んでいた一枚」という大げさなキャプションが付くわけです。ただし、イーノのボーカルは1990年のジョン・ケールとのコラボレーション作品「ロング・ウェイ・アップ」で披露されていましたから、15年ぶりという方が実感に沿っています。

 アルバムはイーノの自宅スタジオにて足掛け5年かけて少しずつ制作されています。愛用のマックに搭載したロジック・プロを使ってサウンドが作られていったとのことです。ハイパー宅録ミュージシャンですね。

 イーノは「実際に音楽で自分がやっていることは二つ。一つは自分が聴いてみたいと思える音楽、そして二つめは今まで自分が聴いたこともない音楽を作ることなんだ」と語っています。その言葉を実践で示すためでしょう、本作では全く一人で制作した曲はありません。

 本作品には全部で11曲を収録していますが、いずれの楽曲もイーノ一人ということではなく、一人ないし二人のゲスト・ミュージシャンが参加しています。この静かなコラボレーションが聴いたこともない音楽を作る鍵なのでしょう。

 ゲストにはいわゆる功成り名を遂げた大物ミュージシャンはおらず、ギタリストのレオ・アブラハムやキーボードのジョン・ホプキンスなど、現在進行形の実力派が揃っています。わずかに元XTCのバリー・アンドリュースの名前に懐かしさを覚えます。

 その他、過去に「ドロ-ン・フロム・ライフ」でコラボしたジャズ・ドラマーのピーター・シュワルムや、二人の女性ボーカリストやバイオリニストなど、とてもイーノらしい共演者ばかりです。こうして気鋭のアーティストと出会うことができるのもイーノ作品の魅力です。

 ボーカル・アルバムとはいっても、初期ソロ作品の頃とは随分異なっています。「ロング・ウェイ・アップ」は比較的昔のイーノっぽかったですが、ここではイーノの声をさまざまに加工したりしており、飄々とした平坦な声によるボーカルというわけではありません。

 アンビエント・イーノとポップ・イーノという言い方をすれば、かなりアンビエント寄りだと言えます。考えてみれば歌を歌うからといってポップでなければならないわけではありません。ポップ・イーノを念頭から追い出して、虚心坦懐に向き合うべきです。

 二曲目の「アンド・ゼン・ソー・クリアー」はイーノにアルバムを制作する気を起こさせた曲だそうです。一オクターブ高く変調されたボーカルが静かに深く響く曲で、この曲が全体の雰囲気を代表しているように思います。しみじみとしたいい曲です。

 けっしてポップなアルバムではありませんが、アンビエント一色でもなく、落ち着いた音響に身を委ねつつも、ところどころで聴こえてくるボーカルがアクセントになって脳を刺激します。さすがにイーノ、これもまた極上のサウンドです。

Another Day On Earth / Brian Eno (2005 Opal)