この上なく渋いジャケットは、ジョン・マクヴィーが撮影した写真のようです。裏ジャケットの写真は枯木のシルエットの向こうに夕陽が沈む、小豆色の一枚です。ジャケット・アート・ブックの常連だった美しい写真は強烈な印象を残しました。

 この頃のフリートウッド・マック作品は、LP時代にはカット盤の常連でした。後のモンスター・ヒットの影に隠れて、どうにも人気が薄い作品群です。特に日本ではあまり人気がなかったように思います。内容的には素晴らしい作品なのに難しいものです。

 本作品はフリートウッド・マックの6枚目のスタジオ・アルバム「枯木」です。前作からはわずかに半年のインターバルで発表されています。もちろん、メンバーは前作と全く同じです。頻繁なメンバー交代がある彼らにしてみれば珍しいことです。

 アルバムのインスピレーションは、バンドの面々が住んでいた南イングランドの家の近くに住むスカロット夫人のポエムなんだそうです。♪木々が枯れた全き曇天に神の祝福あれ♪という一節からアルバム・タイトルが付けられています。

 夫人のポエムは本作品の最後に「ソーツ・オン・ア・グレイ・デイ」、すなわち「曇天に思う」として、ご夫人自身によって朗読されています。とても珍しい形ですけれども、アルバムの締めくくり、ないしはエピローグとして十分に機能しています。

 アルバムは全部で10曲、ご夫人のポエムを除くと全9曲で、ダニー・カーワンが5曲、ボブ・ウェルチとクリスティン・マクヴィーがそれぞれ2曲ずつを分け合っています。このバンドは作曲者がすなわちボーカリストですから分かりやすいです。

 比率からいってカーワンの貢献が極めて大きいことが分かります。カーワンはこの時まだ22歳です。ピーター・グリーンとミック・フリートウッドにブリクストンのパブで見いだされた早熟の天才は、前作よりもさらにポップさを増し、きらきらしたサウンドを展開しています。

 冒頭の「チャイルド・オブ・マイン」からいきなり元気なサウンドで驚きます。優しいタッチのギター・プレイとともにカーワン・ワールドが全開です。西海岸のAORサウンドを先取りしたかのような曲調です。インストの「サニー・サイド・オブ・ヘヴン」の美しさたるやため息がでます。

 ボブ・ウェルチは後に名作ソロ・アルバム「フレンチ・キッス」に再演されて大ヒットを記録する「悲しい女」を提供しています。AORの名曲は初出のここでも異彩を放っています。一方、もう一曲はロックの醍醐味が味わえる「ザ・ゴースト」です。ウェルチらしい武骨なロックです。

 三人の中で最もブルース臭が強いのがクリスティンです。さすがは元三大ブルース・バンドのチキン・シャック出身です。男性二人を差し置いて、最も力強い荒削りなボーカルは彼女のものです。初期のマックを継承しているようでカッコいいです。

 どの曲もとても良い曲ですし、カーワンとウェルチのギターもカッコいい。適度なブルース風味とAOR的なポップさを兼ね備えた素敵なアルバムです。当初は米国でそこそこのヒットに過ぎませんでしたが、結果的には何年もかかったもののプラチナ・ディスクに輝きました。

Bare Trees / Fleetwood Mac (1972 Reprise)