フリートウッド・マックは大手ワーナー・ブラザーズのリプライズに移籍して、3枚目となるアルバム「ゼン・プレイ・オン」を発表しました。この頃の彼らの作品はいろいろと錯綜しているので分かりにくいですが、これが正真正銘の三作目のスタジオ・アルバムです。

 内ジャケットには5人の写真が写っています。この時のメンバーは、バンド名の由来ともなったドラムのミック・フリートウッドとベースのジョン・マクヴィーに加えてギター三人、実質リーダーのピーター・グリーン、ダニー・カーワン、ジェレミー・スペンサーです。

 当時のフリートウッド・マックは英国三大ブルース・バンドとして人気を集めており、スタイルの違う三人のギターはバンドの大きな魅力でした。ちなみに三大ブルース・バンドのあと二つはチキン・シャックとサヴォイ・ブラウン、マックも当時は彼らと並んでいたんです。

 しかし、ジャケットに5人写っているからといって油断はできません。本作品にはジェレミー・スペンサーはほんの少し、ピアノで係わっているだけです。実質的にはダブル・リード・ギターの4人組となってしまっていました。

 また、アルバム単位でみると、これがダニー・カーワンのデビュー作となります。彼はこの当時まだ19歳です。そのカーワンは全14曲中ちょうど半分の7曲を作っています。残りのうち5曲はグリーン、そしてフリートウッドとマクヴィーが1曲ずつとなっています。

 フリートウッドとマクヴィーの曲は、「ファイティング・フォー・マッジ」と「サーチング・フォー・マッジ」と題されており、バンドによるスタジオでのジャム・セッションを編集した作品です。ブルース・バンドらしい試みだといえます。

 それにしても新加入のメンバーに、アルバムの半分を任せてしまう懐の深さは、リズム隊の名前をバンド名にしたマックならではでしょう。のちにこの特質が彼らをモンスター・バンドにのし上げるわけですから感慨深いです。珍しいバンドです。

 サウンドは1960年代のブリティッシュ・ブルース・ロックそのものです。彼らは本作品の制作の最中に、念願のシカゴを訪れ、バディ・ガイやウィリー・ディクソンなどのブルース・マンと共演を果たしており、そこでの刺激をうまく消化しているように思います。

 もろにブルースではあるのですが、彼らなりのオリジナリティーを見つけようとしている姿勢が見られます。当時としては録音時間の長いアルバムに彼らの実験精神の発露をみることもできるでしょう。一心にブルース道を進む彼らの姿はすがすがしいです。

 本作品は英国では6位となる大ヒットを記録し、米国でも109位とはいえ、チャートにはしっかり顔を出しています。この頃のマックの英国での人気は大変なものでした。先行シングルの「オー・ウェル」もかなりのヒットを記録していますし。

 ジャケットにはロンドンのマンションのためにデザインされたという壁画をもってきており、この不思議なセンスもフリートウッド・マックの人気に一役かったことでしょう。さすがは、とらえどころのないバンドの初期の傑作です。

Then Play On / Fleetwood Mac (1969 Reprise)