パイロットの「新たなる離陸」は数奇な運命をたどったアルバムです。その物語には日本が大いに係わっているところが面白いです。日本の洋楽ファンはぶれることなく、良質でポップなロックを正しい評価をくだします。本作品もその評価を経て欧米に逆輸入されることになりました。

 前作「モリン・ハイツ」を発表した後、パイロットは、ドラムのスチュアート・トッシュが抜けて10ccに入ってしまいました。残されたデヴィッド・ペイトンとイアン・ベアンソンの二人はマネジメント契約を終えて、セッション・ミュージシャンとなることを余儀なくされます。

 二人はその後、プロデューサーのアラン・パーソンズが始めたアラン・パーソンズ・プロジェクトに参加することとなりました。「アイ・ロボット」では二人が大活躍しています。ついでに二人はポール・マッカートニーの大ヒット曲「夢の旅人」にも客演しています。

 ここでパーソンズの相棒エリック・ウルフソンが助け舟をだします。エリックは二人にアラン・パーソンズ・プロジェクトと並行してパイロットのアルバムを制作することを提案します。マネジメントの問題を解決したペイトンはアリスタの社長クライブ・デイヴィスと話をつけます。

 こうしてお膳立てが整い、二人になったパイロットはシングル「ゲット・アップ・アンド・ゴー」をリリースします。「マジック」のような大ヒットになる予感がしたデイヴィスは祝電を送りましたが、時は1977年、パンクに荒らされた市場では渾身の作品も成功には至りませんでした。

 続いてアルバムとなりますが、英国ではリリースされたものの、米国では発売もされませんでした。ちなみに南米と日本ではマイナーながらもヒットを記録しています。そうしてお蔵入りに近い状態が続きましたが、ネット環境が整うにつれて本作を惜しむ声が高まります。

 特に日本でその声が強く、パイロットはCD再発を望みますが、アリスタがこれを承諾せず、やむを得ず、2002年に本作の曲の大半を再録音したアルバム「ブルー・ヨンダー」が日本で発売されます。アリスタが折れてCD再発となったのも日本が最初、2005年のことです。

 こんな経緯をたどったアルバムですが、今ではそんなことなど忘れたかのように、欧米でも本作品がパイロットの最高傑作だという人が多いそうです。それを思うと、しみじみとパイロットは活動した時期が悪かったとしか言いようがありません。

 あと数年だけ前か後にずれていれば、極上のポップ・センスを誇るパイロットの作品群はもっともっと売れていたことでしょう。メンバーは10ccやアラン・パーソンズ・プロジェクトで活躍するわけですから、そのセンスは折り紙付きです。ミュージシャンズ・ミュージシャンです。

 本作品はアラン・パーソンズがプロデューサーに復帰し、ロイ・トーマス・ベイカー時代のファンキーな要素や分厚いコーラス路線をうまい具合に消化して、初期サウンドをバージョン・アップしています。とてもこなれたソングライティングと演奏です。

 残念ながらオリジナル・メンバーのビリー・ライアルはソロ・アルバムを一枚出しただけで、エイズに倒れてしまいました。オリジナル・メンバーでの復活はなりませんが、三人組で後に復活することになります。いつまでも活躍できたはずのバンドなのに惜しいことです。

Two's A Crowd / Pilot (1977 EMI)