英国のポップ・ロック・バンド、パイロットの三枚目はレコーディング場所を題名にもってきて「モリン・ハイツ」とされました。中心メンバーの一人だったビリー・ライアルが脱退したこともあり、いつもと違う場所で録音したいと選ばれたのがカナダのモリン・ハイツでした。

 モリン・ハイツはカナダのケベック州にある観光都市です。2か月間に及ぶ制作期間中、メンバーは午前中はスキーを楽しみ、午後に録音を進めるという、ロケーションを最大限に活用した楽しいレコード制作だったようです。

 メンバーはデヴィッド・ペイトン、イアン・ベアンソン、スチュアート・トッシュの三人になってしまいましたから、キーボードにはセッション・ミュージシャンのピーター・オクセンデールが起用され、アルバムはその四人で制作されました。

 もう一つの大きな変化はプロデューサーの交代です。アラン・パーソンズに代わって、ロイ・トーマス・ベイカーが起用されました。この頃のベイカーはパイロットのレーベル・メイト、クイーンのプロデューサーとしてその名を高めていました。

 ベイカーの起用について、ペイトンは「パイロット・サウンドをよりタフなものにしたかったんだ。クイーン好きだし」と言っています。ベイカーもパイロットのサウンドを把握しており、この取り合わせは大変順調に進んだ様子です。

 制作にあたって、彼らはさまざまな音響の実験に手を染めていきます。ギターのスピーカーをガラスに向けてみたり、凍った湖の真ん中において音をだしてみたり、ドラムにマイクをてんこ盛りに備え付けたりと、とても楽しそうです。

 結果として、アルバムのサウンドはこれまでのパイロット・サウンドとは少し毛色が異なるものになりました。冒頭の「ホールド・オン」からして、いきなりファンキーなサウンドが飛び出してきますから、最初に聴いたときには驚いてしまいます。

 曲作りはライアルの穴をベアンソンが埋めており、その「ホールド・オン」を始め、全11曲中3曲を作っています。先行したシングル曲「ランニング・ウォーター」もベアンソンの曲です。パイロットらしいけれども、ちょっと違うという、絶妙な曲作りです。

 ベイカーらしく全体にコーラス・ワークが多用されており、「ファースト・アフター・ミー」などはまるでフレディ・マーキュリーと思わせる箇所も出てきます。ベアンソンは後に、本作のプロダクションについて「ちょっとクイーンにより過ぎている」と書いています。

 ペイトンも当時はベイカーの仕事に満足していたようですが、今から振り返ると、聴き通すと耳が疲れると少し不満そうです。この当時はこうしたテンションの高いサウンドが流行っていましたからしょうがないところでしょう。

 良い曲が揃っているアルバムでパイロットの作品の中では最も売れたそうです。パイロットらしいポップ・センスが冴える一枚であることは間違いありません。私の一押しはベアンソンの印象的なギターが冴える「ペニー・イン・マイ・ポケット」、彼らの魅力がつまっています。

Morin Heights / Pilot (1976 EMI)