パイロットは「マジック」の一発屋だと思われているふしがありますが、彼らの最大のヒット曲は「ジャニュアリー」です。1975年1月にシングル・リリースされたこの曲は、わずか2週間で全英チャート1位となりました。オーストラリアでは10週間も1位だったそうです。

 そもそもパイロットはEMIレコードが会社名を冠したレーベルを創設して初めて契約した3組のバンドのうちの一つです。他の二組はコックニー・レベルと、何とクイーンです。この三組の中でいち早く全英チャートを制したのがパイロットです。

 「ジャニュアリー」に代わって1位になったのがコックニー・レベルの「メイク・ミー・スマイル」、両者に負けてしまい、フレディー・マーキュリーは大いに気に病んだ様子です。「1位おめでとう。ところで自分が1位になった時は...君にしゃべりかけたりしないぞ」、フレディーらしい。

 残念ながらデヴィッド・ペイトンはこのエピソードで「ボヘミアン・ラプソディー」に出演することはかないませんでした。本当に残念です。ちなみに「ボヘミアン・ラプソディー」でクイーンが英国チャートを制するのはこの年のクリスマスのことです。

 「ジャニュアリー」は今となっては「マジック」の陰に隠れた印象がありますけれども、とても爽やかなポップ・ロックの名曲です。ベイ・シティ・ローラーズと比べるとバブルガム感が少なく、10cc的な英国ポップ・センスが光ります。

 この曲は、1974年10月の「マジック」の大ヒットを受けて急きょシングル・リリースされたものです。パイロットの名前が浸透しだしたところで、ペイトンがのどを痛めてライブをキャンセルした事態を打開するためということもあったでしょうが、見事に大ヒットです。

 続いてリリースされたのが「ジャニュアリー」を含むアルバム「セカンド・フライト」です。ここでのパイロットはギターにイアン・ベアンソンを加えた四人組です。ジャケットに描かれた四枚の羽根をもつプロペラが四人組の意気込みを表しています。

 ベアンソンの力強くて花のあるギターは大いに活躍しており、パイロットのサウンドに格段に厚みが生まれました。アラン・パーソンズとのコラボレーションもこなれてきた様子で、パイロットとしての個性が確立したアルバムとして、ペイトンは大いに満足しています。

 一方、曲作りは前作でのペイトン=ライアル名義から、それぞれの名義に変化しています。よりポップな曲を志向するペイトンに対して、ライアルは「ドゥー・ミー・グッド」など、よりアートな曲調です。二人のバランスが素晴らしいのですが、この関係は危うさを秘めています。

 案の定、自身の曲がシングル採用されないこと、プロデュースの能力が評価されないことから、本作を最後にビリー・ライアルはバンドを去ってしまいます。「ジャニュアリー」に続くシングル、ペイトンの「コール・ミー・ラウンド」が大ヒットしなかったことも遠因でしょう。

 そんなごたごたを秘めつつも、本作品のサウンドは四人の絶妙のバランスの上になりたった素敵なサウンドが堪能できる、とても良いアルバムです。1970年代ブリティッシュ・ポップの底力を如実に表しています。私はやはりこういうサウンドが大好きです。

Second Flight / Pilot (1975 EMI)