1974年10月に発表された英国エジンバラ発のポップなロック・バンドのデビュー・アルバムです。この表現はそのまんまベイ・シティ・ローラーズにもあてはまりますが、こちらはパイロットの「フロム・ザ・アルバム・オブ・ザ・セイム・ネーム」です。

 両者のつながりはそれだけではありません。パイロットはデヴィッド・ペイトンとビル・ライアルというローラーズに短期間ながら在籍していた二人がドラマーのスチュアート・トッシュとともに結成したバンドです。ローラーズ旋風間近な時期ですから、デビューも即決でした。

 大手EMIレコードは、ペイトン、ライアル、トッシュの頭文字P、L、Tを使ってパイロットと名付けられたトリオを積極的に売り出します。そのかいもあって、本作からのシングル曲「マジック」がいきなり全英11位、全米6位の大ヒットを記録します。この上ないスタートです。

 EMIはまだ海のものとも山のものとも分からないこのバンドに、アビー・ロード・スタジオを用意し、ビートルズ・フリークだったバンドを喜ばせます。おまけにプロデューサーにはビートルズやピンク・フロイドの「狂気」にかかわったアラン・パーソンズを起用しました。

 アランはパイロットらしいサウンドの確立に大きく貢献します。冒頭の「ジャスト・ア・スマイル」が画期となった曲で、ペイトンがリッケンバッカー4本をオーバーダブすることで、分厚いポップなサウンドが完成しているのですが、これがアランの助言によるものです。

 パイロットのサウンドは正面からブリティッシュ風味が濃厚なポップなロックです。久しぶりに彼らのアルバムを聴きながら、ずっと誰かに似ていると考えていたのですが、その誰かとはどうやらパイロットでした。よくありそうでいて、実はパイロットしかいない。妙なバンドです。

 ペイトンは本作品について、パイロットのサウンドを確立した、よく頑張った作品だと語っています。「多くの人が初めて耳にする曲でもすぐにパイロットの曲だと分かる」というパイロット・サウンドです。やはりそんなこと言われていたのかと不思議に納得してしまいます。

 また同時にペイトンは本作品の限界にも触れています。「もちろん僕たちはいっぱい学ばなければいけなかったし、いくつかの曲はまだ未熟だ。自分のボーカル・レンジを越えてたりね。それでもこれは梯子の一段目なんだ」と愛着をにじませながら語っています。

 それはともかく、本作からの最大のヒット曲「マジック」はやはり特別な曲です。この頃の英国ポップスのコンピレーションを編集すると必ずといっていいほど「マジック」が選ばれます。1970年代のブリティッシュ・ロックのポップ・サイドを代表する楽曲です。

 なお、シングル「マジック」のB面曲の録音にあたって呼ばれた同じエジンバラ出身のギタリスト、イアン・ベアンソンは本作品の制作にかかわった後、正式にバンドに加入します。こうして4人組となったパイロットは、スパークスのサポートなどツアーで名前を確立していきます。

 素直にセルフ・タイトルとせずに、一ひねりしたタイトルをつけた彼らはブリティッシュ・ロック、ポップ・サイドの王道を歩むバンドとして大きな期待を背に進んでいくことになります。何といってもレノン=マッカートニーにならってペイトン=ライアルですから。

From The Album Of The Same Name / Pilot (1974 EMI)