ザ・フォールは前作発表後に米国ツアーを敢行します。そのツアー中にバンドはまたまた空中分解してしまいます。バンド・メンバーはマークEスミスと奥さんのエレナ・プールーを残してイギリスに帰ってしまいました。ザ・フォールに新たなエピソードが付け加わったわけです。

 具体的な出来事は自伝に詳細に書かれています。真相はよく分かりませんが、本作品のタイトルにつけられた「ポストTLC」のTLCは、裏切者、嘘つき、ゲス野郎のことを指しているそうですから、マークはよほど腹に据えかねたのでしょう。

 当時、ザ・フォールのCDの米国での販売を行っていたナーナック・レコードはこの事態に素早く対応します。ロスアンジェルスからドラムのオルフェオ・マッコードを呼び寄せ、彼がベースのロブ・バルバト、そのロブがギターのティム・プレスリーを連れてきてバンドが完成します。

 あまりにも英国的なバンドだったザ・フォールにアメリカのミュージシャンばかりが加わって、どうなることかと思いましたが、結果的にはこれが功を奏しました。マークにとっても彼らとのコラボレーションはとても気持ちの良いものだったようです。

 「彼らの何が良かったかって、ドイツのバンド、カンの名前を出したら、みんな好きだっていうんだよ」という発言が面白いです。U2やストーン・ローゼズではなくカン。ここがポイントです。マークとセンスが合い、余計なエゴを前に出さない柔軟なプロフェッショナル三人です。

 大騒ぎの後のバンドですから、ひいき目もあるでしょうが、マークはこのメンバーに大いに満足して、本作品の制作に取り掛かります。マークがアイデアを出すと、彼らは「考えたこともなかったけど、やってみよう」と快く対応しましたから、マークの意欲もわくというものです。

 もともとはマンチェスターのグループのパロディを企図していたそうで、とてもパーソナルなアルバムとして始まりましたが、出来上がった作品はソリッドなサウンドになったとマークは自賛しています。奇妙な部分が多いですけれども、それも慎重に配されているのだと。

 「リアル・ニュー・フォールLP」はカムバック、「フォール・ヘッズ・ロール」は落ち着き、「リフォーメイション」は破棄で、三部作だそうです。本作品は未来を向いているというよりも、一つの終りを表現しているということなのかもしれません。マークの言葉は難解です。

 マークは新たなメンバーをカムフォート・ゾーンから追い出し、「歪んだ仕方でタイミングについて考えるように仕向けた」のだそうで、ザ・フォール・サウンドの真髄をたたき込みました。その結果として、バンドは実に見事なザ・フォールっぷりを発揮しています。

 お約束の曲にならない曲「ダス・ボート」もあれば、いつもの不愛想ながらまとわりつくギターリフの反復を基盤とした曲もあり、奇妙なポップ・センスも全開です。前作同様、比較的くっきりした録音ながら、マークのしゃべくりボーカルも力強いです。

 ジャケットはマーク・ケネディなるアーティストの力作で飾られているのですが、なぜか米国盤にはバンドの集合写真が使われており、「やり直したい」とマークは語っています。こんな無理解な米国でこんな素晴らしいアルバムを作るとはさすがはザ・フォールです。

参照:"Renegade" Mark E Smith (Penguine)

Reformation Post TLC / The Fall (2007 Slogan)