ゴングの才人、オーストラリアン・ヒッピーのデヴィッド・アレンの初のソロ・アルバム「バナナ・ムーン」です。プログレッシブ・ロックでバナナと言えば、盟友でもあるケヴィン・エアーズの「いとしのバナナ」か、アレンの「バナナ・ムーン」かという名盤です。

 アレンといえば、英国プログレッシブ・ロック界の一大勢力であるカンタベリー・シーンの立役者です。ソフト・マシーンも彼のバンドでしたけれども、ビザ切れで英国への入国を拒否されたため、アレン抜きでアルバム・デビューすることになったのは有名な話です。

 その後、フランスを拠点に活動することになり、ここで後のゴングが形作られていきます。ゴングのファースト・アルバムはこの頃に発表されています。アレンは、さらにバナナ・ムーン・バンドなるバンドも組んで、デモ録音を行っており、これは後に陽の目を見ることになります。

 1971年になるとようやく英国に入国することを許されたアレンは初めてのソロとなる本作品の制作に取り掛かります。タイトルは「バナナ・ムーン」ですが、件のバナナムーン・バンドは参加しておらず、パートナーはベースのアーチー・レジェとドラムのロバート・ワイアットです。

 ワイアットはアレンよりも10歳も年下ですが、ワイアットの親のゲスト・ハウスにアレンが住み着いたことからシーンが始まるわけですから、ワイアットにとってアレンはメンターのような存在でした。レジェはケヴィンの「いとしのバナナ」にも参加しているベーシストです。

 ゲスト参加のピップ・パイルはワイアットに呼ばれて1曲だけドラムをたたいており、これをきっかけにゴングに加入します。そのゴングからアレンのパートナーのジリ・スマイスやクリスティアン・トリッシュ、スプーキー・トゥースのゲーリー・ライト他も参加しています。

 そんなメンバーで制作されたアルバムはとても自由な雰囲気です。仲間内で盛り上がりながら作ったであろうことがよく分かります。好き勝手が過ぎると聴く人を疎外してしまいかねませんが、心の底から自由人のアレンですから、むしろ人々を惹きつけます。

 アルバムは軽快なロック・チューンで幕を開けると、ソフト・マシーンのヒュー・ホッパーがつくったバラードの名曲「メモリーズ」へと進みます。ワイアットの哀愁漂うボーカルが素晴らしい。まだ若いドラマー時代のワイアットですが、すでに十分渋いです。

 ソフト・マシーンの幻のシングル曲「フレッド・ザ・フィッシュ」や、アレンがケヴィン・エアーズそっくりに歌う「ホワイト・ネック・ブルーズ」、三人とバイオリンのジェリー・フィールズによる即興演奏による11分を超える曲まで、とにかくバラエティ豊かです。

 この即興曲はソフト・マシーンの恩人でもあるイビザのウェス・ブランソンに捧げられています。この献辞も含め、アレン本人の各楽曲の解説がとても面白いです。なぜか各楽曲がそれぞれ何時間かけて完成したかが数字でかかれていたりもします。

 デヴィッド・ボウイはこの作品を好きなアルバムに挙げており、グラム・ロックのスタイルはここから始まった可能性を示唆しています。世間からまるで自由な精神が溢れかえる、魅力にあふれた一枚は、グラム・ロックの精神に通底するものがあるとはボウイの慧眼です。

Banana Moon / Daevid Allen (1971 BYG)