前作からちょうど1年後に発表されたザ・フォールの新作「アー・ユー・アー・ミッシング・ウィナー」です。タイトルからして妙な英語です。私はフランク・ザッパ先生の「ユー・アー・ホワット・ユー・イズ」を思い出しました。何か深遠なニュアンスがありそうです。

 この1年でバンドはまたまた総入れ替えです。マークEスミスの他にかすかにつながっているのはベン・プリチャードのみです。彼は前作に1曲だけゲスト参加しています。彼以外は全く新しい人々です。冒頭の曲にある通り、♪ウィー・アー・ザ・ニュー・フォール♪です。

 正式メンバーとしてクレジットされているのは、ベースとギターにジム・ワッツ、ギターにベン・プリチャード、ドラムにスペンサー・バートウィッスル、そしてマークの4人だけです。ここにプロデュースを手伝ったエド・ブレイニーとブライアン・ファニングがゲスト参加です。

 マークによれば、ザ・フォールのまわりにいつもいた忠実な若者たちが助けてくれたんだということです。ライブばかりではなく本アルバムのレコーディングを一貫して支えてくれた。とするとこのメンバーはザ・フォールのロイヤルなファンたちということになります。

 しかし、忠実なファンだったはずのベンは、後に不満をたらたら述べています。この頃はお金がなかったようで、安いスタジオしか借りることが出来ず、ひどい経験だったというのです。ファンがインナーに入ると往々にしてそういうことを言い出すものです。

 確かにスタジオがひどかったことはアルバムを聴けば分かります。のちにかなり改善することになりますが、オリジナルCDのサウンドはあまりよくありません。各楽器やボーカルのバランスも突然変わったりしますし、ちゃんとしたミックスがなされていないようです。

 「しかし、それも良かった。確かにスピリットがあった」とはマークの弁です。ごちゃごちゃ言うベンですが、マークにアルバムを聴かされては黙らざるをえなかったようです。とはいえ、この作品はあまり評判はよくありません。まあこのサウンドだとしょうがないかもしれません。

 そういうスタジオ作品ですから、前作とはうって変わって、ローファイなガレージ・ロック・タイプのサウンドになっています。まるでデモ・テープを聴いているような生々しいギター、とんとんなるドラム、ぶんぶんなるベースがばらばらに生息しているような感じです。

 それでも紛れもないザ・フォールのサウンドです。前作とはまるで違いますけれども、一貫しているところは一貫している。メンバーはそもそもがファンですから、ザ・フォール以上にザ・フォール、ファンによるザ・フォール・トリビュートの面持ちさえあります。

 イギー・ポップの「アフリカン・マン」を解体してカバーした「アイビスーアフロ・マン」はジュリア・ネイグル在籍時のライブも交えて秀逸ですし、「クロプ・ダスト」のギター・リフなど聴きどころはあります。まるで自主制作の趣きですがこれもザ・フォールです。

 この後の米国ツアーは成功裏に終わり、マークはこの若者たちとザ・フォールをもう一度再建してやっていこうという気になりました。このメンバーと一緒にやっていくことに価値を見出したとのことですから、この作品は重要です。そのスピリットを存分に味わいましょう。

参照:"Renegade" Mark E Smith (Penguine)

Are You Are Missing Winner / The Fall (2001 Cog Sinister)