謎のアーティスト、テイ・トウワのデビュー・ソロ・アルバム、「フューチャー・リスニング」です。実は謎でもなんでもない人で、アメリカでDJとして人気を博してカタカナ名のまま日本に帰って来たというだけで、何となく無国籍な謎めいた人物だと勝手に思ってしまっただけでした。

 テイ・トウワはニューヨークの美大に留学しながらDJを始め、そこで縁あってディー・ライトに加入します。そのデビュー作は全米トップ10入りする大ヒットを記録しています。しかし、ステージから落ちてむち打ちのような症状で弱ってしまったことが転機になります。

 「家で紅茶を飲みながらインド音楽聴いたり、スポークンワーズのレコードをヒップホップのインストに乗せてみたり、イージーリスニングの上にアナログシンセの音をかぶせてみたり。そういう聴き方の方がしっくりきた」。フューチャー・リスニングと命名した聴き方です。

 ディー・ライトのメンバーには理解されなかったものの、ラジオ番組「サウンドストリート」への投稿常連だったアマチュア時代からテイを評価していた坂本龍一が「ケツを叩いてくれた」ことが励みになって「ソロを始めたんですよね」というわけです。

 本作品はそのものずばり「フューチャー・リスニング!」と題されました。アルバムには坂本龍一、細野晴臣、松武秀樹、立花ハジメ、清水靖晃、高野寛、野宮真貴などのYMO周辺、というと何ですが、ゆかりの人々が参加しています。

 さらに海外からは、DNAのという形容も必要ないアート・リンゼイ、ブラジルの歌姫ベベウ・ジルベルト、さらにはイーノのアンビエント・シリーズで名高い怪人ララージなどが参加しています。こうして参加者を並べてみるだけでわくわくするような作品であることが分かります。

 レイヴ・パーティーでわいわいやっているディー・ライトのメンバーには理解されなかったというフューチャー・リスニングですけれども、レイヴ・パーティーなんか行ったことがない私にはとても真っ当至極な聴き方です。紅茶大好きですし。

 手元のアルバムは2007年に再発されたもので、ボーナス・ディスクがついています。「フューチャー・リコール3」と題されたリミックス集は、過去に発表された2枚の「フューチャー・リコール」から選ばれた曲に新リミックスを加えたものです。

 もともとのアルバムからしてリミックスのようなものですから、続けて聴いても何の違和感もありません。そして、気鋭のアーティストによるリミックスは「テクノヴァ」や「ラヴ・コネクション」などの代表曲のエヴァ―グリーンな素晴らしさを再確認させてくれます。

 ブラジリアンやインディアン、メロウなR&B、最後はララージの妙な楽器の音を使ったダブ・サウンドまで、世界中の様々な音楽のエッセンスを詰め込んで編集した、クラブ・ミュージックの王道のような気持ちの良いサウンドです。これがソロ・デビューとは恐れ入ります。

 デザインに定評のあるテイですから、手塚治虫のような肖像画のジャケットも、色彩感がいかにもインド的な見開きの絵もセンスにあふれていて素敵です。ちょうど私も今腰が痛いのでジャケットを眺めながらフューチャー・リスニングしています。ヒーリング効果もありそうです。
 
参照:「あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.1 : Towa Tei」黒田隆憲(Cinra.Net)

Future Listneing / Towa Tei (1994 フォーライフ)