ジャズ史に残る名盤「カインド・オブ・ブルー」を世に送り出したマイルス・デイヴィス・セクステットの数少ないライブ・アルバムとして人気の高いアルバムです。ジャケットがなかなか素敵なデザインです。この頃のジャズ・アルバムのジャケットはかっこいいものが多いです。

 「ジャズ・アット・ザ・プラザ」と題されたアルバムは1958年9月9日にニューヨークのプラザ・ホテルで開催されたライブを収録しています。小さくVOL.1と書かれていますから当然2があるわけですが、それは同日のデューク・エリントンのライブを収録したものです。

 このライブはコロムビア・レコードがジャズ部門の隆盛ぶりを祝うために関係者を招いて開催したものです。招待状には「ジャズ・パーティーに来なよ」なんて書かれていたそうですから、そのカジュアルな感じが伺われます。まあ着飾っていたのでしょうが。

 この場で演奏したのは、マイルス・デイヴィス、デューク・エリントン、ビリー・ホリデイ、カウント・ベイシー楽団で歌っていたジミー・ラッシングの4組です。贅沢なパーティーです。録音されたのは発表のためではなく、思い出のためなんだそうです。

 それはアルバムを聴けば分かります。マイルスのトランペットは突然小さくなったりしますし、全体にバランスも悪く、客席の音もよく聴こえてきます。ライブ・アルバムとして発表するつもりだったら、もう少しちゃんとした機材を使ったことでしょう。

 実際発表されたのは1973年で、ライブから15年もたってからです。この頃のマイルスが好きなジャズ・ファンにとっては干天の慈雨に等しいリリースだったのではないでしょうか。録音の多少の難など関係ない。やっぱり50年代のマイルスは凄いぞと。

 メンバーは、アルバムのオリジナル・ライナーは間違えていますが、ドラムはフィリー・ジョーではなくてジミー・コブです。加えて、キャノンボール・アダレイ、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンス、ポール・チェンバースにマイルスで例のセクステットです。

 この頃のセクステットは、「次第にまずくなりはじめてい」ました。エヴァンスは唯一の白人であったがために嫌な思いをすることもあり、「ツアーに嫌気がさし、自分の音楽をやろうと、バンドを辞めたがっていた」し、「キャノンボールも同じようなことを言って」いました。

 「トレーンですら、似たようなことを考えはじめていた」そうですから、空中分解も時間の問題でした。結局、エヴァンスが11月に辞めてしまいます。そんなことを考えながら聴いてみると、このステージはなかなか味わいが深いです。

 最も有名なのはエヴァンスのピアノがリードする「マイ・ファニー・バレンタイン」でしょう。マイルスのワン・ホーンとエヴァンスのリリシズムが光ります。他の曲ではコルトレーンが目立つのはいつものことですが、キャノンボールも生気に溢れています。

 特にチェンバースのベースに顕著な録音の残念さはあるものの、ライブを重ねてきたセクステットの演奏自体はなかなか素晴らしいものです。パーティーの招待客は幸せだったでしょう。もしかして客からの15年越しのリクエストでレコード化されたのかもしれませんね。

参照:「マイルス・デイヴィス自伝」中山康樹訳(シンコー・ミュージック)

Jazz At The Plaza / Miles Davis (1973 Columbia)