ニューポート・ジャズ・フェスティバルは1954年に初めて開催され、2020年の今も続く老舗ジャズ・フェスです。マイルス・デイヴィスにとっては1955年に初めて出演したときに吹いた「ラウンド・ミッドナイト」が出世作となったという相性の良い場所です。

 マイルスの伝記映画「クールの誕生」にその頃のニューポート・ジャズ・フェスティバルの映像が少し映し出されていました。その模様は私が想像していたものとはかなり異なるものでした。ピットインやブルーノート、コットン・クラブ、ましてやフジロックなどとは大違いです。

 主に映っていたのは、目を閉じて演奏に耳を傾ける着飾った白人カップルの姿です。もっとリラックスした雰囲気かと思っていたら、そこはまるでコンクール会場さながらです。実際、ナレーションでも、ミュージシャンの品評会だというようなことを言っていました。

 1955年には「どういうわけか最終段階になって、オレが付け加えられた」なんて言っていたマイルスですが、ここでは堂々と自身のセクステットを率いての登場です。冒頭ではデューク・エリントンと並べられるという賛辞でもって紹介されています。登りつめたものです。

 メンバーは「マイルストーン」と同じ、マイルスのトランペット、、キャノンボール・アダレイのアルト・サックス、ジョン・コルトレーンのテナー・サックス、ビル・エヴァンスのピアノ、ポール・チェンバースのベース、ジミー・コブのドラムでセクステットです。

 演奏は1958年7月3日の夜に行われました。この日はデューク・エリントンとデイヴ・ブルーベック、そしてマイルスがメインでした。にもかかわらず、マイルスは交通渋滞に巻き込まれて演奏にぎりぎり間に合うタイミングで会場に到着するというハプニングに見舞われます。

 さらに全体が押していたのか、コルトレーンはソロを短くするように要請されたのだとか。それでもマイルスは「もちろん大成功だった」と軽く総括しています。マイルス自身が選んで進化を続けたこのセクステットへのマイルスの情熱が伝わります。

 本作品はこの時のステージの模様を収録したライブ・アルバムですが、この形に落ち着くまでには紆余曲折を経ています。まず、最初は1964年5月に「マイルス・アンド・モンク・アット・ニューポート」としてコロムビアから発表されました。

 何とセロニアス・モンクのコンボが1963年のフェスで披露した演奏とのカップリングです。もちろん二人は共演していません。その後、マイルスのセクステットの演奏はさまざまな形でレコード化され、2001年になってようやく現在の姿になりました。

 このセクステットのライブ録音は貴重ですから、人気もありますけれども、録音はあまりよくありません。ベースは引っ込んでいますし、時々ドラムが大きすぎたりもします。演奏が良くないわけではありません。大成功したというマイルスの言葉に偽りはないでしょう。

 ディジー・ガレスピーやチャーリー・パーカーの曲を取り上げて、力強い生きのいい演奏が続きます。コルトレーンは本領を発揮していますし、精彩を欠いているとされるキャノンボールもかっこいいです。さすがは天下のマイルス・デイヴィス・セクステット。

参照:「マイルス・デイヴィス自伝」中山康樹訳(シンコー・ミュージック)

At Newport 1958 / Miles Davis (2001 Columbia)