カンの問題作の登場です。「アウト・オブ・リーチ」は1978年に発表されましたが、その後、カンのアルバムが一斉にCD化された際になぜか除外される憂き目にあいました。そのため、私のような後追いのファンにはその存在すら怪しい幻の作品になってしまいました。

 そもそも本当にカンのオリジナル・アルバムなのか?ちょうど「リミテッド・エディション」やら「ディレイ」などのコンピレーションもありましたから、何かの編集盤ではないのかとかいろいろと考えてしまいました。そういう謎のアルバムがあるというのもいいものです。

 本作品は「ソウ・ディライト」の続編ともいうべきアルバムです。最大の相違点はオリジナル・メンバーの一人ホルガー・シューカイが参加しているかどうかです。前作ではベースはやめたものの音響や編集で参加していたホルガーがついに完全に姿を消してしまいました。

 したがってメンバーは前作からホルガーを除く、ドラムのヤキ・リーベツァイト、キーボードのイルミン・シュミット、ギターのミヒャエル・カローリのオリジナル組に、トラフィックからの二人、ベースのロスコ・ジーとパーカッションのリーバップ・クワク・バーを加えた5人組です。

 「ソウ・ディライト」に見られたカン・サウンドの変化はホルガーがいなくなったことでより一層その方向に進んでいきました。自由な雰囲気のサウンドが最大の特徴だったカンでしたけれども、ここではきっちりと構築されたサウンドにより寄って行っています。

 特にロスコ・ジーがボーカルをとる二曲「ポーパーズ・ドーター・アンド・アイ」と「ギヴ・ミー・ノー・ローズ」ではその傾向が顕著です。ひょろひょろしたジーのボーカルがコミカルな印象を与えるポップな歌ものはカンだとは指摘されないと分からないでしょう。

 クワク・バーのボイスが聴かれる「ライク・イノベ・ゴッド」もボーカル自体はずるずるしているのですが、サウンドはきっちりしており、こちらもカンらしさは片鱗も見られない面白い曲です。カンのファンの間では最悪の曲だと言われているようですが。

 全体に新しいメンバーの活躍が目立ち、ラテン風味が強いこと、ディスコ・サウンドを感じさせることなど、老舗カン・ファンには大いなる問題作であることが分かります。オリジナル・メンバーにとってもそうだったために長らく公式ディスコグラフィーから落とされていたのでしょう。

 しかし、カンにこだわらずに聴くと、何だか妙な雰囲気の面白いアルバムです。私は「ノベンバー」という曲が好きです。この曲ではとてもカンらしいカローリのギターが大活躍します。これはこれでサンタナみたいだと言われ、カンタナなどと陰口をたたかれるのですが。

 ともかくそのカローリのギターにシュミットのピアノ・ソロ、うねるリズムなどは往年のカンでもトラフィックでもないとても刺激的なサウンドだと思います。ヤキのメトロノーム・ドラムがクワク・バーのパーカッションに隠れて目立たないところまでが新鮮です。

 前作同様にカンの看板を外して聴くとこれまた悪くないアルバムです。職人さんたちが5人寄りあって、有機体となるのではなく、それぞれがバラバラのまま持ち味を発揮することで、少し距離を置いてみた方が楽しめるセッションになった、そんな感じのアルバムです。

Out Of Reach / Can (1978 Harvest)