あいみょんの作品はどのようなアレンジがなされようとも、弾き語りが透けて見えるような気がするというようなことを言い続けてきたものですから、弾き語りの作品集が出されるとなるとこれはもう手に入れないわけにはいきません。

 本作品「風とリボン-ポテト・スタジオ2020年6月」は10曲入りのアルバムで、あいみょんの三枚目のアルバム「おいしいパスタがあると聞いて」の初回限定盤に同包されている、いわゆるボーナス・トラック集であると言えます。

 しかし、そこはあいみょんです。そもそも独立したアルバム・タイトルが付けられている上に、ジュエル・ケースも別建て、ジャケット・ブックレットもきちんと作られていますし、。アルバムのクレジットもしっかりと記載されています。もうこれは別アルバムとして扱うしかありません。

 アルバムはあいみょんが音楽制作の拠点としているポテト・スタジオのダイニング・ルームでレコーディングされています。途中でやり直したりしているところや、気合を入れているところなども少し収録されており、その場の空気が伝わってきます。

 収録されている曲は全部で10曲です。同包の最新作からは「ハルノヒ」、「裸の心」、前作「瞬間的シックスセンス」からは「マリーゴールド」、「二人だけの国」、メジャーデビュー作「青春のエキサイトメント」からは「愛を伝えたいだとか」、「ふたりの世界」と2曲ずつ。

 残りの4曲は、まず「愛を伝えたいだとか」のB面曲「ハッピー」、「君はロックを聴かない」のB面曲「青春と青春と青春」、「空の青さを知る人よ」のB面曲「葵」、最後は本作唯一の未発表曲である「サラバ」です。何ともバランスの良い選曲です。

 「ハルノヒ」は多部未華子と共演したTVCMで弾き語りを披露していました。「裸の心」は多部未華子主演ドラマの主題歌でしたから縁を感じます。本作品でも「ハルノヒ」のすぐ後に「裸の心」が続いています。残念ながらそちらはビールのCMには向きませんでしたね。

 その「裸の心」はオリジナルも河島英五スタイルの弾き語りに近いアレンジでしたけれども、あいみょんがぽつりぽつりと微かなアルペジオだけで歌う裸のバージョンは何とも生々しくて物語が迫ってきます。しみじみと聴き惚れてしまいます。

 一方続く「マリーゴールド」はオリジナルとはかなり異なる歌い出しで始まります。しかし、やがてリズミカルな歌に移行していきます。結局、この曲も含めてお馴染みの曲も本質的にはオリジナルとアレンジが大きく変わった気がしません。そこが何とも素晴らしいです、

 ブックレットには本編同様「CDに収録されている音声におけるノイズは制作者の意図によるものです」と注が付されています。本編も同様なのですが、妙な補正をしない自然体のボーカルが素晴らしいです。とんだ林蘭のディレクションによるブックレットの姿そのまんま。

 アコギだけだと地味な感じになるものですが、あいみょんの場合はそうはなっていません。彼女の声の魅力、曲の力、物語の力が抜きんでているということでしょう。しみじみといいアルバムです。一時流行ったアンプラグドの魅力を再認識しました。

Kaze to Ribbon / Aimyong (2020 ワーナー)