マイルス・デイヴィスの名前マイルスを効果的に使ったアルバム・タイトル第二弾です。前作の「マイルス・アヘッド」もよく出来ていましたが、こちらもかなりなものです。しかも、内容的にもマイルスが「モード手法で本格的に作曲しはじめた最初のレコード」ですからズバリです。

 「モードというのは、各音階、各音符から始まる七音のこと」です。なんでも「コードに基づいてやるのとはちがう」ので、「和声進行といったようなことに悩まなくていい」ため、旋律的に創造的になれる「限界がないっていうことだ」そうです。

 コードもモードも良く分からない、いやどちらにも縛られていない私としては、これがどれだけ革命的なことだったのかはとんと分かりませんけれども、本作でモードが十分に生かされているというタイトル曲を聴いて、おおっと思ったのは確かです。ちょっと違います。

 そういう分析は音楽家や音楽評論家に素直にお任せしたいと思います。私としては、マイルスが何やら新しい手法に可能性を感じてワクワクしている様を感じ取ることができれば十分です。はつらつとした勢いに満ちた作品だと思います。

 本作品の録音は1958年2月4日と3月4日に行われています。メンバーは例のクインテットにアルト・サックスのキャノンボール・アダレーを加えたセクステットです。発売順ではコンボ作品としては「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」の後ですからクインテット+ワンに見えます。

 しかし、実際にはクインテットはジョン・コルトレーンとフィリー・ジョー・ジョーンズがくびになる形で一度解散しており、ソニー・ロリンズやアート・テイラーが代わりを務めていました。レッド・ガーランドも一時期トミー・フラナガンに代わっています。

 このセクステットは、「ブルースに根差したキャノンボールのアルト・サックスを、和声的そして和音的でフリーなアプローチを取っているトレーンのテナー・サックスと対比させてみたかった」というマイルスの構想で誕生しました。

 そうなると結局、元のクインテットを呼び戻し、「これまで演奏してきたことに、キャノンボール・アダレイのブルース的なヴォイスをミックスさせ、すべてを突き進めてみること」になり、一周回ってクインテット+ワンのセクステットが誕生したというわけです。

 ツアーに出たセクステットは、「初めからすばらしかった」ようで、「ほとんど最初から、全員が自分以上の力を出しはじめていた」わけですが、キャノンボールが本領を発揮していくにつれて、「バンドのサウンドは、どんどん厚くなって」いきました。

 本作品はその集大成的なアルバムでマイルス自身「大いに気に入って、何か特別なことができたと確信した」傑作になりました。新しいサウンドを作っているという喜びにあふれたとてもエネルギッシュな作品です。これまでより音符の数が多いですし。

 バンドの方向性とやや異なるガーランドは二回目の録音の途中で怒って帰ってしまったというエピソードからも、本作の革新性が分かるというものです。それがモード手法によるものなのかどうかは私には皆目見当もつかないのですが。

参照:「マイルス・デイヴィス自伝」中山康樹訳(シンコー・ミュージック)

Milestones / Miles Davis (1958 Columbia)