レイジーはディープ・パープルの「バーン」で認められてデビューしたにもかかわらず、和製ベイシティローラーズとして売り出されるという、今ならばちょっと考えずらいですけれども、当時としてはいかにもありそうな話が満載の芸能界に生きていました。

 また「赤頭巾ちゃん御用心」が結構なヒットになってしまったことで、私などからしてみればレイジーはジャニーズ事務所所属アーティストと大して変わらない、歌も歌うタレントだと思ってしまっていました。それが後にラウドネスになった時には魂消たものです。

 本作品はレイジーの最後のオリジナル・アルバムです。「この頃になると、もはやスタッフの側も諦めていた」そうで、「『もう何を言っても無駄だから好きなようにやらせてやれ』的な空気」のもとで制作された彼ら本来のヘビー・メタル全開のアルバムです。

 レイジーは今やアニソン・プリンスとして知られる影山ヒロノブ、日本が世界に誇るヘビメタ・バンド、ラウドネスを結成する高崎章、樋口宗孝が在籍していたことで、伝説の度合いを深めたバンドです。このメンバーでよくもまあ和製ローラーズに収まっていたものです。

 そんな彼らが1980年7月からのツアーで「ヘヴィ・メタル宣言」を行い、それを実践したのがこのアルバムです。この頃にはアイドルとしては峠を越えた感じもして、むしろライブで披露するロックな演奏に注目が集まっていましたから、環境も味方したんでしょう。

 「宇宙船地球号」はバックミンスター・フラーの著作で有名になった言葉ですけれども、ここでも同様のコンセプトで用いられています。地球を運命共同体とみて、世界の平和を訴えるコンセプト・アルバム的な作りとなっています。

 コンセプトを歌詞に落としているのは伊達歩こと伊集院静です。彼がレイジーのヘヴィ・メタル宣言を後押ししたそうです。本作品にボートラ収録されているシングル曲も彼の作詞ですが、いかにもなラブソングで明らかにアルバム用と区別していることが分かります。

 サウンドの方はギターの高崎晃が9曲中5曲を作曲していますし、編曲はほとんどがレイジー自ら手掛けており、大変ストレートに気持ちの良いヘビメタ・サウンドが展開します。高崎の流麗なギターを追っているだけでとても楽しくなる見事なサウンドです。

 この頃はちょうどNWOBHM(ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)が勃興してきた時期にあたります。それまでのヘヴィ・メタル界は意外と保守的でディープ・パープルやブラック・サバスなど大御所以外は認めない感じがありましたから、ちょうど時期も良かった。

 ただし、面白いことにヘヴィ・メタル全開の本作を作ったことで、かえってラウドネスとなる高崎・樋口組と、AORに惹かれてきていた影山たちとの間で方向性の相違が鮮明になりました。その結果、円満に彼らは解散することになりました。

 ともかく歌謡界を経験したことで、レイジーの作り出すヘヴィ・メタル・サウンドは独特の色をまといました。ラウドネス組の純度が高いヘヴィ・メタルとアニソン・プリンスのボーカルの融合、まるでベビー・メタルの魅力を先取りしていたような面白いサウンドです。
 
Earth Ark / Lazy (1980 BMG)