マイルス・デイヴィスのメジャー・デビュー作です、と書くと何か違う気がしますが、もともとは弱小レーベルに過ぎなかったプレスティッジからメジャー中のメジャー、コロムビア・レコードへの移籍第一弾ですから、あながち間違ってはいません。

 1955年7月のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでのマイルスのプレイを聴いたコロムビアのプロデューサー、ジョージ・アヴァキャンがプレスティッジのボブ・ワインストックと話をつけ、マイルスのコロムビアとの契約が成立します。

 「コロムビアが出してくれるという大金を断るなんて、オレにはできなかった。そりゃあ、馬鹿げているってものだ。それに、すべては白人が出す金だ」と、金銭面では正当な評価をしないプレスティッジを離れた理由をマイルスは語っています。

 人種差別が激しいこの頃のアメリカで、マイルスのようなアーティストの世界でさえ、実力はあっても黒人というだけで平等に扱われていませんでした。このメジャー契約もそんな世界を徐々に変えていく一歩になったと思います。

 コロムビアはさすがにメジャー、素早い対応で、最初のレコーディング・セッションは早くも同年10月26日に行われています。まだ残っていたプレスティッジとの契約が終わるまで発表できず、結局、その後のセッションも含めて1957年3月の発表となりました。

 レコーディング・メンバーは例のクインテットです。マイルスのトランペット、ジョン・コルトレーンのテナー・サックス、レッド・ガーランドのピアノ、ポール・チェンバースのベース、フィリー・ジョー・ジョーンズのドラムという鉄壁のクインテットです。

 発売順では遅いですが、こちらが正真正銘、このクインテットの初録音ということになります。しかも大手らしいことに、冒頭に「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」を収録し、それをアルバム・タイトルにするという抜け目なさです。自然にこれができるのがメジャーなんでしょうね。

 本作品には同セッションの他に1956年6月5日と9月10日のセッションからの曲が収録されています。ちょうどプレスティッジでのマラソン・セッションの間に録音されていることが分かります。結局、ほぼ1年間の制作期間がとられていることになります。

 最初のセッションからはチャーリー・パーカーの「アー・リュー・チャ」のみの収録です。注目の一致するところ、コルトレーンのこの1年間の成長ぶりが著しいですから、この結果なんでしょう。その他には6月セッションが3曲、9月セッションが2曲という構成です。

 問題の「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」は最後の9月セッションです。ギル・エヴァンスのアレンジを元にしており、マイルスらしい豊潤ながら柔らかいトランペットが美しい演奏です。また、一緒にパリにいったタッド・ダメロンの「タッズ・ディライト」は5月のセッションです。

 3つのセッションを卒なくまとめて、さすがはメジャーなんですが、私はマラソン・セッションの方、ルディ・ヴァン・ゲルダ―の録音の方が音が良いと思います。クインテットの演奏はどちらも素晴らしいですが、ここはゲルダ―の懐の深さを買いたいです。

参照:「マイルス・デイヴィス自伝」中山康樹訳(シンコー・ミュージック)

'Round About Midnight / Miles Davis (1957 Columbia)