ロックはまるで一夫一婦制であるかのようにバンドが家族のアナロジーでとらえられることが多いように思います。ローリング・ストーンズのような長寿バンドを理想とし、コロコロとバンドを変えるミュージシャンはまるで尻軽であるかのように。

 ギタリストにとって理想のリズム・セクションを別のバンドに発見したら、まずは自分のバンドを解散してそちらと結婚したいと思うことでしょう。エリック・クラプトンの場合、何とかうまくいきました。そうして結成したのがデレク・アンド・ドミノスです。

 クラプトンがブラインド・フェイスとして米国ツアーを行った際に、前座を務めたのがデラニー&ボニーでした。結果的にスーパーグループのブラインド・フェイスは解散し、デラニー&ボニーのリズム・セクションとクラプトンが合体してデレク・アンド・ドミノスになりました。

 クラプトンは2007年の時点で「今日に至るまで、ベース・プレイヤーのカール・レイドル、ドラマーのジミー・ゴードンが、これまで一緒に演奏したリズム・セクションのなかで最もパワフルだろう」と回想しています。この泥臭いリズムに惚れ込んだということでしょう。

 本作品はドミノスの唯一のスタジオ・アルバムで2枚組の大作「いとしのレイラ」です。上述の3人にキーボードのボビー・ホイットロック、そしてあろうことかギターでデュアン・オールマンが全面的に参加するという豪華なラインナップで制作されました。

 今から振り返ると信じられない気がしますが、こんな豪華なメンバーなのにアルバムは全米16位が最高位です。英国ではチャート・インすらしませんでした。シングル「いとしのレイラ」のトップ10ヒットはアルバム発表から2年後のことです。

 レイラという名前は中東からインドにかけて広く流布しているイスラム版「ロミオとジュリエット」ともいうべき「ライラとマジュヌーン」から採られています。この話は当該地域では誰でも知っている有名なもので、まさかこの曲に結びついているとは知りませんでした。

 「いとしのレイラ」のギター・リフはロック史上最も有名だと言ってもお叱りを受けないほど素晴らしいものです。クラプトンと言えばこのリフ。時代がどんなに下っても、どんなに活躍しようともクラプトンのギターと言えばこれです。それほどまでに時代を突き抜けています。

 しかもゴードンのピアノが活躍するインストゥルメンタルの後半部ではデュアンのきんきんなギター・ソロがフィーチャーされており、二人のギター・バトルの何と素晴らしいことか。クラプトンの生き生きとしたプレイぶりが素晴らしいです。

 全体にレイドバックしたサザン・ロック風味の濃いブルースが全開です。名作「ベル・ボトム・ブルース」を始め、ジミ・ヘンドリックスの「リトル・ウィング」やホイットロックの「庭の木」に至るまで、それぞれの持ち味を十二分に発揮した奇跡の演奏には無条件で興奮します。

 残念ながら彼らは本作を残したのみで解散してしまいます。結婚生活は長くは続かなかった。ちなみに「いとしのレイラ」はジョージ・ハリソンの奥さんへの横恋慕の曲です。リズム・セクションの略奪にはとりあえず成功しましたが、奥さんはそうはいかなかったようです。

参照:「エリック・クラプトン自伝」エリック・クラプトン著、中江昌彦訳(イースト・プレス)

Layla and other Assorted Love Songs / Derek and the Dominos (1970 Polydor)