マイルス・デイヴィスのマラソン・セッション第三弾です。これまでの2枚のアルバムとは異なり、マイルスの写真がジャケットに使われています。銀行員然としたマイルス、いかにも働いているという感じがします。アルバム名にちなんでいるんでしょうか。

 今回は1曲「ハーフ・ネルソン」を除いて1956年5月11日のセッションからの曲で占められています。アルバムの発表は1960年のことですから、セッションから5年後です。この頃のジャズの進化のスピードを考えるとかなりのブランクです。

 このアルバムの中での異色作といえば、「アーマッド・ブルース」です。この曲はマイルスが絶賛してやまないピアニスト、アーマッド・ジャマルの曲で、そのタッチをうまく弾きこなすレッド・ガーランドを中心としたトリオ編成での演奏になります。

 マイルスはガーランドのピアノを絶賛しており、プレスティッジのボブ・ワインスタインにそのプレイをしっかり聴かせようとしてこの曲を自分やジョン・コルトレーン抜きで吹き込んだそうです。結果は大成功で、ワインスタインはガーランドと専属契約を結ぶことになります。

 またアルバムに解説を寄せているジャック・メールもこのトリオ演奏を絶賛しています。ジャックがカフェ・ボヘミアにクインテットを聴きに行った際、バンドの演奏は方向を見失っていましたが、このトリオだけの演奏がクラブの雰囲気をすっかり変えてしまったそうです。

 トリオの演奏によって「醸し出されたフィーリングが、全員に取りついていた緊張感を取り払ったのである。そして極めて穏やかな雰囲気に変えてしまったのだ」。そしてマイルスが再び登場して演奏した「イット・ネバー・エンタード・マイ・マインド」は極上だったそうです。

 この曲は本作ではオープニングに置かれており、ガーランドのソフトなタッチのピアノが映える素晴らしいバラードです。マイルスとコルトレーンという二大カリスマを中心に聴いてしまいがちですが、このリズム・セクションはとにかく素晴らしいです。

 マイルスも特にフィリー・ジョー・ジョーンズのドラムを絶賛しています。「フィリー・ジョーこそ、すべてが起こり得るための炎だった。彼には、オレのやることの全部が、オレが演奏しようとしていることのすべてが、わかっていた」。

 「オレが何かを吹いた後によくやっていた、あのリム・ショットが、『フィリー・リック』として知られるようになったんだ。彼はそれで有名になって、最高のドラマーと言われるようになった。」といいますから、よほど相性が良かったんでしょう。

 ポール・チェンバースのベースも「アーマッド・ブルース」ではボウイングを使った歌うようなソロを披露したりして、若々しさに溢れています。マイルスはミュージシャンを発掘する能力にたけていたということがよく分かるチームの充実ぶりです。

 もちろんマイルスもコルトレーンも素晴らしい演奏を繰り広げているわけで、「リラクシン」とは違って働きもののセッションらしい感じが伝わってきます。同じセッションではありますが、そこは編集の妙ということでしょうね。

参照:「マイルス・デイヴィス自伝」中山康樹訳(シンコー・ミュージック)

Workin' with the Miles Davis Quintet / Miles Davis Quintet (1960 Prestige)