大変月並みで申し訳ありませんが、待望のアルバムです。あいみょんの「おいしいパスタがあると聞いて」は前作「瞬間的シックスセンス」から1年7ヶ月ぶりとなるメジャー三作目のアルバムです。結論から申し上げると余裕の傑作です。さすがあいみょん。

 前作から結構時間が空いているとはいえ、その間に4枚のシングルが発表されており、あいみょんロスが起こったわけではありません。コンスタントに活動を続けており、メディアでの露出も多かったので、1年半ぶりと聞いてちょっと驚いたくらいです。

 いつものようにシングル4曲はしっかりと本作に収録されています。それぞれ、「ハルノヒ」はクレヨンしんちゃんの映画、「空の青さを知る人よ」も同名の映画、「真夏の夜の匂いがする」と「裸の心」はTBSの火曜ドラマの主題歌ですからあいみょんのもてっぷりが分かります。

 私はこの中では唯一「私の家政夫ナギサさん」を見たのみです。人気の高いドラマでちょっとした社会現象になりましたが、前作の「けもなれ」同様、あいみょんの「裸の心」がとても効果的に使われていました。CMでも共演している多部未華子に似合うとてもいい曲です。

 あいみょんは河島英五が好きだとどこかで発言していましたが、「裸の心」はまるで師匠にならったかのようなこてこての曲で、私はとても好きです。しみじみと日本酒が飲みたくなる絶妙のバラードで、あいみょんの絶唱が素晴らしいです。

 アルバム全体は前作同様、田中ユウスケ、関口シンゴ、トオミヨウ、會田茂一の四人が手分けしてサウンドをプロデュースしています。特に田中ユウスケはシングル4曲中3曲に加え、TVタイアップ曲「さよならの今日に」を担当するなど半分を占めています。

 その「さよならの今日に」はブリット・ポップやオルタナ・ロックを感じさせるエレキギター・サウンドが耳を惹きます。河島英五調の「裸の心」はトオミヨウの担当です。彼は「マシマロ」ではまるで異なるユニコーンのようなアレンジを提供しています。

 「マシマロ」はアルバムのアートワークを担当しているお馴染みのとんだ林蘭が初めて手掛けた原色が素敵なポップでキュートなMVが楽しいです。ジャケットにパスタで作った花を配したセンスはMVでも全開になっています。かっこいいです。

 サウンドは生楽器が中心です。特にドラムには全12曲に8人ものドラマーが起用されるという贅沢ぶりです。中にはソイル&ピンプのみどりんも含まれています。ベースもベースボールベアーの関根史織を含め6人。丁寧につくられています。

 基本は弾き語りで完結するアーティストですから余裕のあるサウンド作りです。やはり彼女の魅力は物語。ストーリーテラーとしての才能が際立っています。けして私小説に堕することのない物語の強さというものをひしひしと感じます。とにかく面白い。

 生楽器中心のサウンドで、絶妙に構築された物語を聴かせるというポピュラー音楽の王道をひた走るあいみょんです。歌っているのはあいみょんですが、聴衆席にもあいみょんがいて、一緒に物語の行く末に固唾を飲んでいるようなそんな心やすさも感じます。

Oishii Pasta Ga Aru To Kiite / Aimyong (2020 ワーナー)