フランスのコメット・レコードはエリック・トロセによって1998年に設立されたレーベルです。エリックは1990年代後半にアフロビートのレジェンド、トニー・アレンとのコラボレーションを開始しており、このレーベルはアレンを中心に回っていると言ってもおかしくありません。

 この作品はエリックによって企画されたプロジェクトで、ヨーロッパ各国のさまざまなアーティストにトニー・アレンのドラムを使った楽曲を制作させて、それをコンパイルしたものです。そのため、この作品には全編にわたってアレンのドラムが響き渡っています。

 エリックによれば、「トニー・アレンの音楽をリミックスするということではなくて、まったく逆、すなわちそれぞれのプロデューサーにアレンのドラム・パターンを出発点としてアフロビートにパーソナルな貢献をしてもらおうというもの」です。

 作品は一連の12インチ・シングルとして発表されており、このCDはそれらをまとめたものになります。発表形態からもエリックの意気込みが感じられます。時間をかけてアフロビートを普及させていこうとするエリックの努力には頭が下がります。

 選ばれたアーティストの中で私にも馴染み深いのはシネマティック・オーケストラです。ジェイソン・スワンスコーはアレンのドラムにピアノを足すことによって見事なミックスを作り上げました。アフリカそのもののアレンのドラムにヨーロッパのピアノが絡む絡み方がいいです。

 サン・オブ・サイエンティストはウェスト・ロンドン・シーンの大物、ブレイク・ビーツの創始者ともいわれるIGカルチャーの別名です。カイディ・テイタムのキーボード、ジンバブエ生まれのエスカのボーカルを加えた作品で、後の「ゼン・バディズム」を彷彿させる曲です。

 正直、この二組しか知らなかったので、少し調べてみました。アンサング・ヒーローズもウェスト・ロンドンのヒップ・ホップ・チーム、トラブルメイカーはマルセイユのエレクトロニック・ミュージックのバンド、ブーズー・バジューはニュルンベルグのダブトロニカのデュオです。

 また、ジェフ・シャレルはフランスのプロデューサーでハウスやテクノの初期のころから活動しており、オーガニック・ミュージックを標榜しています。ロガールはベルリンのベテランDJ、ビガブッシュは25人のパーカッションからなるマジック・ドラム・オーケストラの一員です。

 これくらいにしておきますが、ヨーロッパ中から選ばれたエレクトロニクス・ミュージックのプロデューサーたちに、いわばアレンのドラム・レッスンを受けさせて、アフロビートのとりこにしていこうという思惑があったということでしょう。

 出来上がった作品は70分にわたってアレンの特徴的なばたばたした軽やかなドラムが鳴りっぱなしです。全12曲、全部異なるアーティストの作品ですけれども、そんな違いを軽々越えて、これはトニー・アレンのアルバムだと言えます。全編、これアレン。

 うまい具合にエレクトロニクス・サウンドがおかずとなって、主食たるアレンのドラムを引き立てています。どこからどう聴いても、ボーカルがあろうがピアノが入ろうが、どうしようがアレン。アレンのアフロビートをこれほど堪能できるアルバムは他にないと言っていいくらいです。

The Allenko Brotherhood Ensemble / Various Artists (2001 Comet)