アルバムのジュエル・ケースに音楽各紙の賛辞が記されたステッカーが貼られています。「ペンデュラムはドラム&ベースを極限に高めた」(Mixmag)、「ペンデュラムの心を捉えて離さないクロスオーヴァー性は彼らをスーパースターにするだろう」(Kerrang!)などなど。

 ほぼ毎年スーパースター候補を名指しする英国の音楽プレスが2008年当時期待していたのはペンデュラムだったことが分かるというものです。彼らの場合はきちんとメディアの期待に応えて本作品を全英初登場2位のヒットとしました。

 ペンデュラムはオーストラリア出身のバンドです。もともとドラムンベースのDJデュオとして結成されており、一般にはドラムンベースのバンドだと紹介されます。本作はドラムンベースのアルバムとしては異例のヒットを記録したファーストに続くセカンド・アルバムです。

 「爆発的音速ビートで、全英初登場2位!!サマソニ・ダンス・ステージのトリに異例の大抜擢!!宇宙規模のシンフォニック・ロックの魔物。ヤツラが唸る。その耳でその目で確かめよ!!」。「!」の多さがレコード会社の力の入れようを物語ります。

 ペンデュラムの音楽の特徴は、「爆発的音速ビート」すなわちドラムンベースと、「宇宙規模のシンフォニック・ロック」すなわちオルタナティブ・ロックがちょうど良くブレンドされているところにあります。エモーショナルなロックですけれども、しっかりダンス系でもある。

 良く引き合いに出されるのがプロディジーやケミカル・ブラザーズなどのダンス・アクトですが、ロック・サイドはフォール・アウト・ボーイやマイ・ケミカル・ロマンスなどとの親和性も高い。2008年当時の英米の音楽シーンを体現したバンドです。

 メンバーは当初のデュオから6人組に拡張しており、そのうちDJが二人、MCが一人となるところが特徴的です。楽器隊はDJの一人、オリジナル・メンバーのギャレス・マクグリレンがベースも兼ねるほか、ドラムとギターが一人ずつとなっています。

 ここにリーダーで曲作りとプロデュースを担当するロブ・スワイヤーを加えて計6人となります。この6人はライブの定評が極めて高いです。さまざまな電子楽器を導入したドラムンベース・サイドとロック・サイドが絶妙のマッチングをしているということです。

 本作品のタイトルはラテン語を使って「イン・シリコ」と題されました。「イン・ヴィヴォ(生体の中)」「イン・ヴィトロ(試験管の中)」の並びで「コンピューターの中」を表しています。本人たちはニルヴァーナの「イン・ウテロ(子宮の中)」との対比も考えていたそうです。

 ジャケットはタイトルを表現した絵になっており、シリコン・チップに囲まれた中に胎児が描かれています。コンピューターで育った世代である自分たちを素直に表現しているわけですが、この中でやはりロックも聴いていたんだなということが良く分かります。

 ドラムンベースをリズムにエモーショナルなロックを展開するペンデュラムのサウンドは一周まわって何か懐かしい感じがしたものです。高速ビートのオルタナ・ロックはとてもさわやかで若さっていいなと素直に感動しました。

In Silico / Pendulum (2008 Warner Bros.)