「コレクターズ・アイテム」とはよくぞ名付けたものです。このアルバムは1953年1月のマイルス・デイヴィスとチャーリー・パーカーのセッションが収録されていますが、ここまで未発表でしたし、発表当時パーカーはすでに故人でしたから、まさにコレクターズ・アイテムです。

 このセッションはさまざまな意味で貴重です。パーカーがいつものアルト・サックスではなくテナー・サックスを吹いていること、ソニー・ロリンズとパーカーの二人がテナーで共演していること。レコーディングされたのは前者が二例目、後者は唯一無二だそうです。

 面子は刑務所から出てきたばかりのロリンズ、ピアノにウォルター・ビショップ、ベースにパーシー・ヒース、ドラムにフィリー・ジョーンズ、そしてパーカーとマイルスです。パーカーは契約の関係でここでは「チャーリー・チャン」とクレジットされています。

 パーカーはマイルスの師匠に当たりますし、この頃は当然格上の存在です。パーカーもそんな態度で臨んだため、「まるで、リーダーが二人いるようなレコーディングだった」とマイルスは述懐しています。確かにパーカーのサックスに耳を奪われる快演です。

 このセッションの時、パーカーは泥酔していたそうで、へべれけのパーカーの態度にあわやレコーディングは中止になる瀬戸際でしたが、パーカーがその気になったことで、「それからオレ達は、本当にすばらしい演奏をした」という曰く付きの演奏です。ワイルドです。

 マイルスとてまだヘロイン中毒の最中ですし、ロリンズもドラッグで刑務所から出たばかり、よくもそんな状況でこんな演奏ができるものです。ここでは「サーペンツ・トゥース」の2回のテイク、セロニアス・モンクの曲「ラウンド・ミッドナイト」、「コンパルジョン」の4曲の収録です。

 このセッションはまだ残りがある模様ですが、とりあえずLPの片面しか埋まりません。残りの半分を埋めることがプレスティッジとの契約上必要でした。そのために行われたのが1956年3月のセッションです。メンバーはロリンズ以外はまるで異なります。

 こちらはトミー・フラナガンのピアノ、ポール・チェンバースのベース、アート・テイラーのドラムにロリンズのテナー・サックス、マイルスのトランペットというクインテットによる演奏です。なお、この時には、マイルスはヘロインと手を切ることができていました

 メンバーも録音時期もドラッグとの関りもまるで異なるセッションが同居するという大胆なカップリングです。無理にアルバムとしての統一感などを考えずに、半分ずつ聴くのが、心の平穏を保つためにも良いと思います。

 決定的なのはパーカーがいるかどうかです。二人リーダー作の様相を呈している前半と、ロリンズの野太いサックスが吠えるとはいえ、しっかりマイルスの手中にある後半とは感じがまるで違います。その対比がジャズの醍醐味かもしれませんね。

 まだまだ12インチLPが標準になってきたばかりです。アルバム単位での制作が緒に就いたばかりなので、こういうユニークなアルバムが制作されるというもの。そういうところも「コレクターズ・アイテム」の名にふさわしいです。

参照:「マイルス・デイヴィス自伝」中山康樹訳(シンコー・ミュージック)

Collectors' Items / Miles Davis (1956 Prestige)