先日、近所のお寺に「なんか嫌なこと あったら その何倍も良いこと 起こすために もっと もっと 生きてこ」という標語が掲げてありました。この金言の主は、ご存じBiSHのモモコグミカンパニーです。今やモモカンの言葉はお寺さえ動かす力さえ獲得しました。

 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのBiSHにとってコロナ禍でのライブ活動停止は衝撃的な出来事だったに違いありません。そのことを忘れないようにパッケージ化しておくべく、発表されたのがベスト・アルバムであり、本作「レターズ」です。

 もともとシングル盤として発表する予定だった作品に急きょ仕上げた曲を足して、7曲入りのアルバムが完成しました。フル・アルバムにしては少し短いので3.5作目だと説明されています。とはいえ、映像が付いたり何やらで丁寧なつくりになっているのはいつもの通りです。

 ライブがないということはファンとの触れ合いがない。双方向ではないにせよ、その欠落を少しでも埋めるべく、このアルバムには一枚一枚メンバーの手書きのジャケットが付けられています。ちなみに私のものは「センチ」と書いてあるのでセントチヒロ・チッチによるものでしょう。

 シングルリリース予定だった曲は、タイアップ曲3曲と思われます。テレビアニメ「キングダム」のオープニングテーマ「TOMORROW」、ドラマ「浦安鉄筋家族」のエンディングテーマ「ぶち抜け」、リアル脱出ゲーム「夜の遊園地からの脱出」のテーマ「co」です。

 ここに新曲が4曲、アルバム・タイトルにもなった「レターズ」、アユニ・D作詞の「スーパー・ヒーロー・ミュージック」、東京スカパラダイスオーケストラとの共演「ロケンロー」、チッチ作詞の「アイム・ウェイティング・フォー・マイ・ドーン」です。どの曲も一癖ありますよね。

 「レターズ」は「ここまでちょっと暑苦しいほどストレートな歌詞はなかったと思う」とチッチが語るほど、コロナ禍を正面から言葉にした曲です。この状況ではそういう歌詞が輝きます。リンリンとハシヤスメ・アツコで始まり、BiSHには珍しいユニゾンが多用される渾身の曲です。

 チッチ作詞の「アイム・ウェイティング・フォー・マイ・ドーン」は、BiSHを振り返って書かれた歌詞で、チッチがライブで一番好きだという「サラバかな」の一節が引用されています。その部分は「結成から歌ってきた3人で」歌っています。BiSHファンにはたまらない仕掛けです。

 アユニの「スーパーヒーロー・ミュージック」は加入当時のアユニの姿を知っている人々にはその成長ぶりに涙がでるのではないでしょうか。「自分がここ1、2年でやっと音楽と出会って、音楽が好きになって、音楽が寄り添ってくれる生活を送ってこれて」。驚くべき変貌ぶり。

 東京スカパラダイスオーケストラとの共演もBiSHの実力のほどを発揮して秀逸ですし、他の曲も捨て曲がありません。モモカン作詞の「ぶち抜け」の♪全力疾走でぶち抜け♪というフレーズがメロディーに乗るところなんて、とてもBiSHらしいですし。

 これまでのBiSHサウンドに比べるとボーカルが前に出ており、メンバーの歌に乗せた気持ちがより鮮やかです。そしてそれはとても真摯な姿勢です。BiSHの魅力はそこにあります。やはりBiSHはロック・バンドの系譜を一身に引き継いでいます。

参照: BiSHから届いた胸が詰まるような手紙。全員で語る空白の数か月間(Cinra.Net) 

Letters / BiSH (2020 Avex Trax)