レボリューショナリー・アーミー・オブ・ザ・インファント・ジーザス、略してRAIJは1985年に英国リバプールで結成されたエクスペリメンタルなミュージック・コレクティブ、音楽共同体です。結成は古いですが、本作品が4枚目のアルバムです。

 バンドの名前はとても意味ありげですが、これはルイス・ブニュエル監督の遺作となった映画「欲望のあいまいな対象」に登場するテロリスト・グループを参照しているのだそうです。かなり攻めた名前であることが分かります。

 RAIJは結成から5年の間に2枚のアルバムを発表し、次の5年間にEPを二枚、それから長らく活動を休止します。3枚目は2015年になってようやく発表され、本作品「ソングス・オブ・ヤーニング」はそれから5年後の2020年発表です。

 スリーブにはスイスの著述家マックス・ピカードの「沈黙の世界」からの言葉が引用されています。「詩は沈黙から生じ、沈黙を希求する。私たちと同じく、詩は沈黙から沈黙へと旅をする。それはあたかも沈黙の上空を旋回して飛行するかのようだ」。

 詩は沈黙を希求(ヤーン)する、とくれば本作品のタイトル「ソングス・オブ・ヤーニング」が希求しているものが沈黙であることが分かります。そしてそのことはRAIJのサウンドに耳を傾ければ誰でも合点がいくものと思います。

 RAIJのサウンドは、フォーク、アンビエント、インダストリアル、そして宗教歌をブレンドしたものと言われ、しばしば引き合いに出されるのはカレント93やデッド・カン・ダンスなど、同世代のニュー・ウェイブ系のバンドです。とても広く括ればロックに分類される。

 まず耳を惹くのはハンナ・ハーパーのシンプルで美しいけれども、その実、世界を倦んだかのようなボーカルです。彼女はギリシャ語、フランス語、英語、ラテン語、スウェーデン語のフィンランド方言、ロシア語と、なんと6つの異なる言語で歌っています。

 おそらくはジャケットに写っているのがハンナでしょう。表情がいいです。19世紀イギリスの貧しい農民のようなたたずまいです。内袋の写真もさらにその感じが強い。サウンドの無国籍、無時間性と相乗効果を発揮する見事なジャケットです。

 ボーカルを支えるのは、アコースティック・ギターやチェロ、そして下地となるエレクトロニクスです。アンビエントなフォーク、効果的に差し込まれるインダストリアル・エレクトロニクス・サウンド。生み出されるのは宗教的ともいえる静謐な時間です。

 RAIJは東方教会の影響を色濃く受けていると言われます。ゴスペルとは異なる正教会の天上に上る合唱曲を想起させます。私としてはジョージアのレストランで敬虔な正教徒であるお客さんが歌っていた美しい合唱を思い出して胸が熱くなりました。

 35年を越える活動歴を持つ、通常の音楽シーンとは一線を画する、何とも謎めいたバンドです。こうしたバンドが存在し続けていることがまず嬉しいです。世界は広い。美しいサウンドがまだまだ知らないところにあるのだということを思い出させてくれます。

Songs Of Yearning / Revolutionary Army Of The Infant Jesus (2020 Occutation)