これぞプログレ界の至宝ともいうべきジャケットです。フループの「当世仮面舞踏会」はタイトルといい、この秀逸なジャケットといい、文句のつけようのないザ・プログレ・アルバムです。おまけにプロデューサーはキング・クリムゾンのイアン・マクドナルドです。

 フループは前作の好評でいよいよ成功への道のりを確かなものにするかと思われましたが、好事魔多しというわけで、前作発表後、1975年1月のライブを最後に重要な役割を担っていたスティーヴン・ヒューストンがバンドを抜けてしまいました。

 ヒューストンの脱退理由は宗教の道に入るということでした。しかし、その理由にふさわしくないことに、後任が決まるまではとりあえずメンバーにとどまるという約束も破り、突然、バンドの機材とともに消えてしまいました。宗教なのに。

 この事件はとにかく間が悪かった。実はその2月にはマドンナやトーキング・ヘッズなどとの契約責任者であった米国サイアー・レコードのセイモア・スタインがフループの前作を気に入って彼らのショーを見に来ることになっていました。

 セイモアが見に来た時はまだまだ慣れない3人組での演奏となってしまい、この大きなチャンスは流れてしまいました。しかし、不屈のバンドは3月にはジョン・メイソンを後任に迎えて再出発することとなります。根性です。

 バンドは7月からスタジオ入りして本作品の制作に取り掛かります。その際、プロデューサーには上述の通り、プログレ界の大物イアン・マクドナルドを迎えました。ビジュアル面でも最も目立っていたヒューストンを欠いたバンドの起死回生の一手です。

 しかし、これは吉と出たのかどうかは分かりません。アルバムに針を落とすと、聴こえてくるのはいかにもイアン・マクドナルドらしいサウンドです。フループはもちろん典型的なプログレ・バンドですけれども、初期キング・クリムゾンとは異なるテイストでした。

 プロデューサーが代われば方向修正があるのはやむを得ませんし、さすがはマクドナルドと思わせる見事なまとめぶりではあります。ここは新生フループであると肝に銘じて、まろやかかつ広がりのある音像による力作を愛でることとしましょう。

 フループは本作発表後のツアーも精力的にこなします。しかし、時代は変わりました。ロンドンでのライブではクラッシュの前身101ersがサポートに立ったそうです。パンクの登場はフループのようなプログレ・バンドの居場所を奪ってしまいます。

 フループは次作の制作に入ったものの結局解散してしまいます。返す返すもヒューストン脱退のタイミングが悪かった。前作のサウンドの方がパンク耐性は強く、進むべき道も見つけられたでしょうに。本作品はまるで墓碑銘のようです。そう思って聴くと感動的ではあります。

 ところが、本作最大の話題は2006年にやってきます。ブルックリンのラッパー、タリブ・クウェリが本作からの「シバズ・ソング」を下敷きにした「カム・ザ・ニュー・デイ」を全米2位のヒットとしたんです。何とも世の中は分からないものです。

参照:Paul Charles HP : The Fruupp Story

Modern Masquerades / Fruupp (1975 Dawn)