アンドリュー・バーンスタインは米国ボルチモアを拠点に活動するマルチ楽器奏者であり、作曲家です。彼はボルチモア・ベースの実験的なロック・バンド、ホース・ローズのメンバーでもあります。ホース・ローズではサックスとパーカッションを担当しています。

 ホース・ローズは2012年にデビュー・アルバムを発表しています。彼らはマトモズなどとツアーをしており、前衛的なロック・バンドでありながら、数々のロック・フェスにも参加しています。バンドはまだ存続しており、本作はバンドと並行して制作されたソロ・アルバムです。

 アンドリューはソロとしてこれまでに3枚の作品を発表しています。いずれもカセットだったり配信だったりがメインで、本作が初めての本格的なLPだとレーベル資料にあります。別レーベルでの前作もCDが出ていますから、どういうことなのでしょうか。

 「アン・エクスプローディッド・ヴュー・オブ・タイム」と題されたアルバムは米国の実験音楽のレーベル、ハウス・マウンテンからの発売です。同レーベルからは二枚目の作品ということになりますが、前作は確かにカセット・テープでの発売でした。

 本作品はどんな音楽かというと、アンドリューのサックスのみによる演奏です。時おり、パーカッションが添えられているようですが、ほとんど目立ちません。サックス・ソロが延々と続くと考えて頂いて間違いありません。

 それも派手なフレーズが出てくるというよりも、ミニマルなフレーズが繰り返される、いわゆるミニマル・ミュージックです。しかも、なお凄いことに演奏は重ねられていますけれども、ループ・ペダルやディレイなどは一切使われていないそうです。

 要するにすべてが実際に吹かれています。制作はわずか1日で、一連のライブ・テイクが録音されています。そして事後処理はほとんど行わずにアルバムに落とし込んでいます。流麗なメロディーよりも、単調なメロディーの繰り返しはむしろ大変なんじゃないでしょうか。

 そう思って聴くと、息継ぎとかどこでやっているんだろうかとか、指使いも大変だろうとか、いろいろと考えてしまいます。コンピューターで処理すれば簡単にできてしまうかもしれませんが、それではこの不思議なミニマル感は出てこないでしょう。

 しかし、完全にテクノロジーに背を向けているわけではなく、一曲だけ、「デウス・エックス・マキナ」、邦訳すると「機械仕掛けの神」ではマルチメディアのためのプログラム言語「ピュア・データ」を用いて作り上げた共鳴プログラムを使っています。

 アンドリューは本作で、さまざまな時間軸を提示しようとしています。振動としての物理的サウンドのレベル、音楽のレベル、演奏者のパフォーマンスのレベル、パッケージ化されたサウンドのレベル。聴く者はどのレベルを選んでもよいのだということです。

 これがタイトルの意味合いです。この言説はとてもミニマル・ミュージックらしいです。ミニマルなパターンの繰り返しは聴き手に大きな自由を与えます。まだ若いアンドリューの信じがたいテクニックによるプレイが自由をともに謳歌してくれます。面白い作品です。

An Exploded View Of Time / Andrew Bernstein (2018 Hausu Mountain)