1958年夏のロンドンの若者たちを描いた「ミュージカル調青春映画『ビギナーズ』」のサウンドトラックです。映画の原作は1959年のカルト小説で「怒れる若者たち」と呼ばれた世代の作家の一人、コリン・マッキネスの手になります。

 スィンギング・ロンドンは1960年代ですから、その前哨戦となる時期の青春群像です。映画は大きく話題になったものの、商業的にはぱっとしませんでした。見ていないので何とも言えないのですが、世評は芳しくありません。

 ただし、デヴィッド・ボウイが歌う主題歌は大ヒットしました。イギリスでは2位となる大ヒットで、ボウイは翌年のグラス・スパイダー・ツアーを始め、何度もこの曲をセットリストに入れていますから、本人も気に入っていたに違いありません。

 余談ですが、この曲でピアノを弾いているのはリック・ウェイクマンです。トップ10ヒットとしては、1973年の「ライフ・オン・マース」以来の共演ということになります。さりげないトリビアで喜ばせてくれるところがスーパースターらしくていいですね。

 ボウイは「ザッツ・モチベーション」も提供しているほか、日本のCMでもおなじみの「ボラーレ」をカバーしています。映画に出演していますから、これでも少ない方でしょう。出演しているといえばシャーデー、キンクスのレイ・デイヴィスも出ています。

 シャーデーは「キラー・ブロウ」、デイヴィスは「クワイエット・ライフ」を披露しています。どちらもオリジナル・アルバムには収録されていない本作品の特典です。スタイル・カウンシルも本作のためにシングル曲の別バージョンを提供しており、これも目玉の一つです。

 ただし、日本では映画の主演女優パッツィ・ケンジットのエイス・ワンダーが人気でした。「ハヴィング・イット・オール」はさまざまなバージョンも含めたシングル盤がリリースされており、彼女のアイドル的人気を物語っています。本国以上の人気です。

 本作品のプロデューサーはクライヴ・レンジャーです。クライヴはほとんど映画のような作風で知られるデフ・スクールのギタリストだった人ですから、水を得た魚のような仕事ぶりです。いろんな曲をうまく組み合わせたサントラらしいサントラになっています。

 その中で一本骨を通しているのが御大ギル・エヴァンスです。オリジナル曲を提供しているのみならず、チャールズ・ミンガスの曲をアレンジしたリーダー作を2曲、ボウイの「ビギナーズ」の変奏バージョンなど、さまざまにかかわっています。

 中でも極めつけは自身が係わったマイルス・デイヴィスの名作中の名作「カインド・オブ・ブルー」の「ソー・ホワット」の歌入りバージョンの収録です。レゲエ歌手スマイリー・カルチャーによる映画の総まとめのような面白いアレンジはギル・エヴァンスだと思うと感動的です。

 サントラらしさで言えばスペシャルズのジェリー・ダマーズによるインスト曲「ライオット・シティ」にとどめを刺します。映画を見ていなくてもなんとなくシーンが想像できる大作です。いろんな話題がてんこ盛りのサントラ大作がオリジナル通り復刻されたことをともに喜びましょう。

Absolute Biginners / Various Artists (1986 Virgin)