ショーン・マッキャンは米国のアンビエント/ドローンの象徴ともいえるアーティストだと紹介されています。同名のシンガーソングライターがいて少しややこしいですが、こちらは1988年にカリフォルニアで生まれていますからまだ若い人です。

 ショーンは音楽活動の傍ら、リサイタルというレーベルを運営しており、サウンド・アートやポエトリー・リーディング、フルクサスの過去音源などをリリースしています。どちらかと言えば現代音楽系に分類されるのかもしれません。

 ショーンは2010年夏にサンフランシスコからロスアンゼルスに引っ越しました。その頃、リサイタル・レーベルを構想し始めており、最初のリリースは自身の二枚組LPにしたいと考えていました。そこで仕事もないショーンはさまざまな音の断片を録り貯めていきます。

 結局4時間分もの音源が出来上がり、整理するために60分もののカセット・テープを作りました。アートワークも含めて作品は完成しましたがお蔵入りとなってしまいます。ショーンは方向を見失い、自分が何をやりたいか考える時間が必要となりました。煮詰まったんでしょう。

 結局、クラシックやアヴァンギャルドな音楽に興味を惹かれていき、厳密な意味でのアンビエント音楽はやりたくなくなります。そんなわけでほっておかれた音源ですが、やはり自作は可愛いのでしょう、ある時、引っ張り出してミキシングを始めました。

 そうして出来上がったのが本作品です。ショーン曰く「自分が制作する将来にわたって最後の『アンビエント』レコード」が誕生しました。発表したのはリサイタルではなく、ドローンやアンビエントで知られるサンフランシスコのレーベル、ルート・ストラタです。2015年のことです。

 再発はリサイタルからでなんと200枚限定のプレスだそうです。長々と経緯をご紹介しました。ショーンの本作品に対する複雑な思いが感じられる話なので、大そう興味深かったものですから。アンビエントなサウンドの後ろにうごめく思いです。

 本作品は、ショーン自身は「これは自分の最もイーノ/バッド作業だ」と書いています。ブライアン・イーノは言うまでもなくアンビエントの創始者、ハロルド・バッドはイーノと「アンビエント2」を作った御仁です。アンビエントの始祖二人です。

 アンビエントを志すと二人のことを意識せざるをえないのは分かりますが、私はこのアルバムがそれほど二人のサウンドに似ているとも思いません。ピアノとストリングスを用いたサウンド・スケッチを10曲に編集したサウンドは二人に比べるとざらついています。

 これでも編集によって綺麗になったのだそうです。高級スタジオの音ではなく、少し霞がかかったようなサウンドながら、けっして丸くない。どうみてもアンビエントではありますが、本人曰く「シンプルでアメリカンな『クラシカル』な含みがある」。

 いろいろな思いが交錯する中で作られたことが感じられる断片集です。これはないだろうと思われるジャケットの不穏さも当時のショーンの心持なのかもしれません。これが最後のアンビエント作品と言い張るショーンは今でもアンビエント/ドローンの象徴と言われています。

Ten Impressions / Sean McCann (2015 Root Strata)