期せずして時代を先取りした正しいソーシャル・ディスタンスを示したジャケットに包まれているのはサウンドガーデンの5作目のアルバム「ダウン・オン・ジ・アップサイド」です。バンド内のテンションを暗示していたはずなのに、模範的な絵柄となってしまいました。

 サウンドガーデンの結成は1984年と結構古く、1990年代初めの米国を席巻したグランジの先駆けとされます。しかし、ブレイクするのは自らが先駆となったグランジがブームになってからというなかなか複雑な経過をたどったバンドです。

 しかし、全米1位となった4作目「スーパーアンノウン」以降は、長いキャリアで培った実力でもって大御所の貫禄を示します。本作品はその貫禄のバンドがいよいよセルフ・プロデュースでもって世の中に自らの威信を世に問うたアルバムです。

 結果は前作には及ばないものの、全米初登場2位という貫禄のヒットを記録しました。しかし、残念ながら本作品の1年後にはいったん解散してしまい、再結成までには13年の歳月を待たねばなりませんでした。微妙な位置にあるアルバムであることが分かります。

 サウンドガーデンはボーカルとギターのクリス・コーネルを中心に、ギターのキム・セイルらとともに結成されています。本作品のラインナップは二人に加えてベースのベン・シェパード、ドラムのマット・キャメロンの4人組、前作と同じです。

 極めてベーシックなロック編成でがんがん攻めまくるのがサウンドガーデンの特徴です。サポートもプロデュースを手伝ったエンジニアのアダム・キャスパーが1曲でピアノを弾いているだけです。とても潔いロック・バンドだと言えます。

 本作品からほぼ四半世紀が経ってみると、二周も三周もまわって逆に新鮮に響きます。カラオケがなくならないのと同様、楽器を演奏して歌いまくるというスタイルはコンピューターがどんなに進歩してもなくならないことを確信させてくれます。

 サウンドガーデンはギターのヘビーなリフを中心にしたサウンドで初期の頃にはメタル・バンドとされていたように覚えています。しかし、クリスの力強く渋い声のボーカルやうねうねとしたダウナー系のリズムはメタルであってメタルでない。

 そこにグランジです。名前がつくと人々は合点するものです。ようやく世間はサウンドガーデンに最適な場所を見つけました。サウンドガーデンに人々はようやく目覚めたのでした。その頂点が前作でした。となると本作はそこからの新たな展開ということになります。

 前作に比べるとバラエティ豊かなサウンドになったと言われます。とはいえ、タイトでありながらアメリカらしい大らかなうねりを感じるリズム、静と動を行き来するボーカル、リフ一直線というわけではない弾きまくるギターが奏でる大ロック大会であることに違いありません。

 本作からはシングル・カットされた「プリティー・ヌース」がグラミー賞にもノミネートされ、サウンドガーデンを代表する曲となりました。これはクリスの曲ですが、メンバー4人がそれぞれ曲を提供しています。バラエティーの源泉でもあり、解散への序曲だったともいえます。

Down On The Upside / Soundgarden (1996 A&M)