レベッカ・フィン・シモネッティは1985年にカナダで生まれ、ニューヨークを拠点に活動するマルチ・メディア・アーティストです。映像も音楽も身近になった今、アーティストの多くは自然にマルチ・メディア・アーティストになっていきます。

 本作品はFIN名義で制作されたアルバムです。彼女は2011年にもCDRを自主制作していますから、フル・アルバムとしてはこれが二枚目ということになります。タイトルは「アイス・ピックス」、シカゴのハウス・マウンテンからの発表です。

 ハウス・マウンテンからのマルチ・メディア・アーティスト作品としては、アレックス・ドリューチンのアースイーターが思い浮かびます。本作品の内ジャケットには彼女に謝辞が捧げられています。お互いに刺激を与えあっているんでしょう。いい話です。

 シモネッティのキャリアはまず10代の頃の実験的な映像制作から始まっています。これがすでにフィルム・フェスティバルで賞を受賞しています。そして、音楽制作、ファッション、ステンド・グラス、絵画、彫刻とどんどん幅を広げていきます。

 すでにアート作品の個展も数多く開いており、最も注目される若いアーティストの一人となっています。ジャケットは赤ちゃんの写真のようにも見えますが、ピアスをしています。注目点はこの色彩感覚です。彼女の彫刻には肌色が多いですし、絵画には朱色が多い。

 「ドッグヘッド」という曲がありますが、シモネッティの彫刻には動物の頭やら肢やらといったモチーフがみられ、それらの肌色が何とも不安にさせる効果をあげています。それに絵画の朱色。これもまた不穏な空気なんです。それがジャケットに凝縮されています。

 線画のイラストは漫画チックで少女二人がプロレスの技をかけあっているというものです。本作品は実験的ではあるもののポップなサウンドで構築されており、ジャケットのアンバランスな感覚が見事に体現されています。

 本作品のサウンドはシモネッティの多重録音されたボーカルと丁寧に構築されたエレクトロニック・サウンドで構成されています。音の壁を作るのではなく、控えめなビートにシンセやサンプリング・サウンドが重なり、幾重にもボーカルが重なるものの、すき間を感じる音です。

 ビョークやPJハーヴィーなどが引き合いに出される中で、一番雰囲気を伝えられるのはトリップホップのポーティスヘッドでしょう。シモネッティの線の細い美しい囁くようなボーカルはビョークよりはベス・ギボンスを思わせます。

 全体のサウンドはいかにもマルチ・メディア・アーティストらしいです。なかなかミュージシャン一筋の人には出せない超然としたサウンドです。音の重ね方というか減らし方が彫刻的です。エモーショナルでありながらも突き放されたような感覚。あくまで音は外にある。

 「私にやめて欲しければ歌いなさい。(暫しの間)。歌わない?いいでしょう。じゃあ続けますよ」とジャケットに書いてあります。ワーカホリックを自称するシモネッティですから、今後もマルチ・メディア・アーティストらしい作品を期待したいと思います。

Ice Picks / FIN (2017 Hausu Mountain)