ジャーマン・プログレッシヴ・ロック界の巨人、エドガー・フローゼの1979年作品の「リメイク版」です。ソロ・アルバムもこれで5作目となりました。このアルバムはリアルタイムで聴いていたのでよく覚えています。当時日本盤も発売されていました。

 今回のリメイクもオリジナルと新たな録音をリミックスしたもので、ファンの間では評判の悪い作品となっています。フローゼはソロ・アルバムの多くをこういう形でリメイクしています。当時から機材の制限もあってもどかしい気持ちもあったのでしょうね。

 「アクア」は私もちょっとどうかと思わないではないのですが、「スタントマン」はあまり違和感を感じませんでした。改めて聴き比べてみるとずいぶん違いますけれども、私の脳内に記憶されていた「スタントマン」はむしろリメイクの方だったりします。

 しばしば若い頃に聴いた音楽というものは、何十年とブランクが空いてしまうと、その間に脳内でその音楽の特徴が誇張された形で徐々に変換されていってしまうものです。久しぶりに聴くと拍子抜けしたりするのはよくあることです。

 「スタントマン」は反復される電子リズムとポップなシンセ・サウンドが持ち味です。フローゼのリメイクはそこのところを強調していますから、脳内リミックスと同じ方向を向いており、オリジナル以上にオリジナルっぽい感じを受けました。

 そこがむしろドローンが目立つ「アクア」とは違うところです。とはいえ、冷静に聴くと、この派手なサウンドは、まだシンセ初期の手作り感の名残りが見られたオリジナルのある種の魅力を損なっていることも事実です。難しいところですね。

 この作品は「当時のエドガーのソロやタンジェリンのアルバムに比べ直球のシンセ・ミュージックが堪能できる隠れた名作!」と宣伝されています。確かにその通りで、これがフローゼの作品でなければさほど驚かなかったでしょうが、やっぱり当時は驚きました。

 タンジェリン・ドリームと言えばやはりシンセのドローンが真っ先に浮かびます。そこにヴァージン時代以降、シークエンサーの反復リズムが加わり、ここにきてシンセによる華麗なメロディーが目立つようになってきました。瞑想というよりも鑑賞。

 全6曲が収録されている点でもポップなアルバムであることが分かります。それに各楽曲のタイトルがいいです。「砂漠の酔いどれモーツァルト」とか「ア・ダリエスク・スリープ・フェーズ」だとか。余談ですが、画家を目指していたフローゼはダリと面識があったそうです。

 今の耳で聴くと、この作品は大変オーソドックスなシンセ・サウンドにあふれています。シンセ・ポップが隆盛を極めだした頃で、シンセはプログレからポップへと進出してきました。その流れに竿をさすことになったアルバムです。

 ところで、本作は「1980年公開の映画『スタントマン』のために書き下ろしたソロ第五作」であるとされているのですが、これはどういうことなんでしょうか。1980年にピーター・オトゥール主演の映画「スタントマン」がありますが、音楽監督は別人ですし。

Stuntman 2005 / Edgar Froese (2005 Eastgate)