高城晶平は、リズムとストーリーテリングの妙で日本のポップミュージックをリードするバンドceroのボーカリスト、フロントマンです。本作は高城が立ち上げたソロ・プロジェクト、パラレラ・ボタニカによる初めてのアルバムです。

 アルバム・タイトルは「トリプティック」、もとは三連の祭壇画を指す言葉です。ロキシー・ミュージックの「カントリー・ライフ」に同名の曲がありましたが、高城はこれを「アメリカの作家、マディソン・スマート・ベルの同名の短編小説から取りました」と語っています。

 タイトル通り、本作は全9曲が3つのセクションで構成されています。それぞれのセクションの終わりに#1から#3までの番号をつけられた「トリプティック」という楽曲がおかれています。まさに「3枚の絵のように描きました」。

 また、作家ベルのことは自身の父親に教わったということ、自身に子どもが生まれて父親になったことから、「自分のなかの父性を掘り下げたくなった」ために、「今回の歌詞がハードボイルドな男の世界になった」と述懐しています。

 こういう話を聞くと、まさにソロ・アルバムだなあという感じがします。誰に気兼ねすることもなく、自分の思い描く世界をその思いのままにできた満足感があふれているように感じます。ceroでの成功がこうした贅沢を可能にしました。

 作品制作に協力したアーティストにはceroの前作にも参加していた光永渉や角銅真実などのお馴染みのメンバーに加えて、ソイル&ピンプ・セッションズの秋田ゴールドマンなどさまざまな第一線のミュージシャンの名前が見つかります。ソロ・アルバムですね。

 中でも共同プロデューサーとなっているSauce81こと鈴木信之の果たす役割は大きそうです。彼は「ヒップホップとダンス・ミュージックを横断するビートメイカー」で、本作品の何とも言えない深みのあるリズムを醸し出しています。

 高城はオーセンティックな音楽性を持つ本作品に「通常ではありえない混沌としたアングルから表現することで、禍々しさや不気味さが香ってくる作品にしたくて」彼に声をかけています。「自分が求めるイメージを具現化するために必要不可欠だったんです」。

 こうまで高城が求めていたものは「異なるアングル」を提示することです。高城は「ローファイ」を引き合いに出しています。クリーンな音をわざと汚すような感覚、質が悪いのではなく、良質な素材をいかがわしく料理するという感覚です。

 本作品のサウンドはライブハウスではなく、ブルーノートやコットンクラブの雰囲気が似合う、質の高い上品なものです。カクテルを片手にゆったりとした時を過ごすに最適な音楽です。しかし、そこに耳を澄ますと何か妙なものが顔をだす、そんな気がします。

 それは高城が表現したかった「日本の原風景、日本のマジックリアリズム」なのでしょう。空間が際限なく広がる感覚が希薄な日本的光景と合致するサウンドだと思います。不思議に閉じた感じが堪らない作品です。

参照:「bounce438(2020/05)」小野田雄(タワーレコード)

Triptych / Shohei Takagi Parallela Bootanica (2020 ソニー)