Pヴァイン・レコードによる「ア・ジャーニー・トゥ・ライブラリーズ」というシリーズの一作「ソーラー・フレアズ」です。ライブラリー・ミュージックの中からきらりと光る作品を紹介しようという意欲的なシリーズです。需要が結構あるものなんですね。

 ライブラリー・ミュージックとは、「TV/映画/CMその他のために制作されたプロユース用音楽の総称」と説明されています。ライナー・ノーツの小川充氏の解説では、「一般への販売目的ではなく、あくまで放送用のBGMとして作られている」のが特徴です。

 より直截に言うと、作品の使用ごとに使用料を支払わなくてもよいように、「あらかじめ音楽家にギャラを支払った上で作品の著作隣接権を買い取る」という手法が編み出され、その対象となった音楽がライブラリー・ミュージックということになります。

 著作隣接権を放送局などが買い取るというのですから、フリー素材ではなくて、その放送局に限っての使用ということになるのでしょう。となると、このアルバムを正面から発表してももはやミュージシャンの手には一切お金は入らず、放送局に入るということなのでしょうね。

 本作品を制作したのはノルウェー出身のアーティスト、スヴェン・リーベクです。1938年に生まれ、ピアニストとしてジュリアード音楽院を卒業していますが、最初に芽が出たのは俳優としての活動でした。その後オーストラリアに拠点を移してから大活躍が始まります。

 オーストラリアのCBSで音楽ディレクターを務めると、200枚以上のレコードをプロデュースすることになります。その後、フリーランスとなって、主にテレビや映画の音楽で大いに活躍します。オーケストラの指揮や編曲も手がけるオーストラリア音楽界の大物になりました。

 本作品は1974年にスヴェンがイギリスのピア・インターナショナル・ライブラリーに残した作品です。ライブラリー・レコードですからライブラリーに入れるための作品で、一般に発売されてはいないために、オリジナル盤は相当なレア盤になっているとのことです。

 名義は「スヴェン・リーベク・アンド・ヒズ・オーケストラ(オブ・リズム・フルート・ブラス・アンド・ムーグ)となっています。ライブラリー用なのでミュージシャンのクレジットは一切ありませんが、彼のオーストラリア人脈の一流ミュージシャンばかりと推測されます。

 作品はまるでコンセプト・アルバムです。アルバム・タイトルが「太陽のフレア」で、各楽曲も「星雲の軌道に」「クエーサー」など宇宙にちなんだものばかり、中には「HALとの会話」と「2001年宇宙の旅」まで出てきます。宇宙ドキュメンタリーはまかせとけって感じです。

 いかにもBGM的に流せるポピュラー・クラシック、軽いジャズ、ムーグを使ったスペース・サウンドなどが最初から最後まで続きます。妙にキャッチーなところもないので安心して聴ける音楽です。スヴェンが目指した通りでしょう。しかし、さすがに演奏力は確かです。

 こういう音楽を楽しめるようになったのはレア・グルーヴと呼ばれる過去音源の発掘、さらに進んでヴェイパー・ウェイブによる新しい楽しみ方の提示を経てからです。本当はいつだってこういう音楽を聴いてきたわけですけどね。とても耳になじみます。

Solar Flares / Sven Libaek and his Orchestra (1974 Peer International)