ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズは前作発表後に念願のアフリカ訪問を果たしました。ラスタファリ運動であがめられているハイレ・セラシエ皇帝のエチオピアを始めとする国々を訪問してアフリカの置かれた状況に触れて、改めて力を漲らせた様子です。

 実に2年半ぶりにジャマイカで録音された「サバイバル」にはアフリカに向けた力強いメッセージが込められました。ジャケットにはアフリカ各国及びパプア・ニューギニアの国旗と奴隷船のイラストを配して、「サバイバル」の意味合いを際立たせています。

 「エクソダス」と「カヤ」のラブ・ソング路線とは一線を画し、本作は直截な政治的メッセージが込められたコンセプト・アルバムの様相を呈しています。それは「アフリカ・ユナイト」を呼びかけ、過酷な歴史を生きてきたアフリカの覚醒を促すものでした。

 中でも「ジンバブエ」は当時南アフリカと並ぶアパルトヘイト政策をとっていた白人国家ローデシアの解放闘争を応援する歌です。翌年にジンバブエ共和国が誕生した際、独立式典でも歌われ、非公式な国歌とされましたから、大いに影響力を発揮したことが分かります。

 実際、「ジンバブエ」はアフリカのミュージシャンが次々にカバー・バージョンを発表していますし、ガーナからは称号を授けられてもいます。ボブ・マーリーはアフリカにおいても救世主的な人気を博すことになりました。汎アフリカを体現したマーリーでした。

 残念ながらジンバブエはその後ムガベ長期政権のもとでけして理想的な軌道を描いたわけではありません。マーリーも空の上で苦い顔をしているものと思います。ムガベ時代がようやく終わったジンバブエの今後に期待したいものです。

 本作品は久しぶりにジャマイカで録音されました。プロデューサーにはウェイラーズとともにアレックス・サドキンの名前が並んでいます。バハマのコンパス・ポイント・スタジオのヘッド・エンジニアとしてアイランドの数々の名作を支えた人です。

 サドキンを迎えて、サウンドは豪華になりました。汎アフリカニズムはサウンドにも現れており、アフリカンな・ビートとねっとりしたブラス・アレンジにアフリカの大衆音楽の影響を見ることは難しくありません。そこが本作のサウンド面での最大の特徴だと思います。

 もともと大西洋を挟むカリブと西アフリカの音楽には親和性が高いわけで、この試みはとても自然に思います。とはいえディープ・ジャマイカのレゲエからみればもともとロック色の強いマーリーのレゲエがさらにインターナショナルな色彩を帯びたことに賛否はあったでしょう。

 分かりやすい歌詞で明快にメッセージを伝えるアルバムはセールスという点では、一部に批判を受けたラブ・ソング路線の「カヤ」には及びませんでした。現実の政治に近づき、アフリカに寄るとそれもやむを得ないのでしょう。

 人々を立ち上がらせる力強いメッセージを歌ってきたマーリーですが、ここではより一層具体的な主張になってきました。そうなるとメッセージを体ではなく頭で受け取ることになっていきます。力強いアルバムですが、アイランド初期作とはやはり一線を画します。

Survival / Bob Marley & The Wailers (1979 Island)