「スキンレスX-1」は、ハウス・マウンテン・レーベルから発表されたファイヤー・トゥールズの二枚目の作品です。ファイヤー・トゥールズは別レーベルからも作品を発表しているので、通算するとこれが4枚目のアルバムになります。

 ファイヤー・トゥールズはシカゴのアーティスト、エンジェル・マークロイドのさまざまな名義のプロジェクトの一つです。1980年代中頃生まれのエンジェルはけっこう活動歴が長く、バンドキャンプのディスコグラフィは2006年までさかのぼることができます。

 エンジェルはここに至るまでに、10代の頃にはプログレやメタルに夢中になり、ラッシュやドリームシアターにならってドラムをプレイし始め、やがてギター、ベース、キーボードを習得して、さまざまなエモ系ロック・バンドのフロントにたってツアーをしています。

 その後、ノイズ系のサーキットで全国を回るなどし、さらにはインターネットを徘徊してネット特有のサウンドに没頭していきます。そんな経験のすべてがファイヤー・トゥールズ名義の本作品には反映されているといってよいです。

 トレードマークとなるデス・メタル・ボーカルにMIDIサウンドと楽器サウンドによる徹底的な折衷主義的な音楽には、さまざまなジャンルの音楽を飲み込み、消化して排泄しています。ハウス・マウンテンでの前作に比べても混ざり具合が一段高いのがこの作品です。

 「ドリップ・メンタル」では各楽曲に曲名とは別にコードネームがつけられていました。本作はコードネームこそついていませんが、絵文字や記号、さらにはギリシャ語まで使われていて、とてもヴェイパー・ウェイヴ的な仕様は相変わらずです。

 ギリシャ語表記の3曲は「隠された静謐三部作」を構成しています。それぞれ英雄が坐す大西洋の伝説の島「幸福諸島」、死後の楽園「エーリュシオン」、黄泉の国の川「レーテー」とギリシャ神話からタイトルがとられています。スピリチュアルな雰囲気が漂います。

 エンジェルは、マインドフルネスを普及させているベトナム僧、ティク・ナット・ハンや、東洋哲学を西洋に広めたアラン・ワッツ、インドの宗教哲学者ジッドゥ・クリシュナムルティをインフルエンサーに挙げています。ますますスピリチュアルです。

 サウンドもそれに呼応するかのように、宗教的というかニュー・エイジ的な側面がこれまで以上に強く出てきているように思います。もちろんそこにカオスを持ち込むところがエンジェルの真骨頂ですから、一筋縄ではいかないわけですが。

 この作品ではゲストの数も「ドリップ・メンタル」に比べると極めて限られています。ほぼエンジェル一人。エンジェルは作詞作曲、録音、プロダクション、ミックス、ジャケット作りを一人でこなし、ボーカル、ドラム、ギター、ベースに加えさまざまな電子機器を扱っています。

 お馴染みの猫はエヴリデイでないのが玉に瑕ですが、スーキとポーセリナが参加しています。エクスペリメンタルなサウンドによって構成されたアルバムには隙がなくなり、全体が一つのテクスチャーになっていて、一気に聴くしかありません。これまた力作です。

Skinless X-1 / Fire-Toolz (2018 Hausu Mountain)