「カヤ」とはマリファナのことです。ジャケットの裏には大きな紙巻マリファナが描かれています。マリファナもあちらこちらで解禁されたという話を耳にするようになってきましたが、この当時はまだまだばりばりの禁止薬物でした。

 ボブ・マーリーは1977年6月にロンドンでマリファナ不法所持で逮捕・起訴され有罪判決を受けています。マリファナはラスタファリ運動では神聖な要素ですから、ここは猛然と反論せねばなりません。このアルバム「カヤ」はその反論の重要な一部です。

 さらにマーリーの個人史を続けると、「エクソダス」ツアーの最終2公演をキャンセルした原因となった足の指の怪我が実は悪性の皮膚がんだったことが判明しています。宗教上の理由で切除はせずにマイアミで治療にあたったのが1977年7月のことです。

 そんな激動の時期に制作された本作「カヤ」は意外にもラブ&ピースに満ちたソフトな作品になっています。前作とのつながりで言えば、壮大な叙事詩的なA面ではなく、ラブソングを並べたB面の雰囲気をさらにリラックスしたような感じです。

 その変貌ぶりを批判する意見も強かったと言われています。レベル・ミュージックとしてのレゲエ、そのシンボルでもあったマーリーの変節だというのです。前作ですらそういう意見があったようですから、闘士というものは大変です。

 しかし、本作品が発表された1978年3月といえば英国ではロングセラーとなった「エクソダス」がまだチャートインしており、マーリー人気はとどまるところを知りませんでした。結局、本作は前作を超える英国チャートでの最高位4位を記録しています。

 アルバムは前作同様ロンドンで制作されました。ライナーノーツにはジャマイカでセッションが開始したと書かれているのですが、少なくともマーリーは1976年12月に飛び出した母国ジャマイカの地を再び踏むのは本作品発表後のことです。演奏の一部ということでしょうか。

 本作からのヒットシングルは「イズ・ディス・ラヴ」で英国ではトップ10ヒットになっています。これもボブ・マーリーの代表曲の一つで、ハッピー&メロウな分かりやすいレゲエ・ビートが楽しい名曲です。インターナショナル・レゲエの本領発揮です。

 もう一曲シングル・カットされてそこそこヒットしたのが「サティスファイ・マイ・ソウル」です。この曲はザ・ウェイラーズの1971年作「ソウル・レボリューション」に収録されていた「ドント・ロック・マイ・ボート」をアレンジしたバージョンで、ホーンが光るこれまたライトなレゲエです。

 タイトル曲も同じアルバムからの再録音になります。状況に応じて豊かなレパートリーから曲を引っ張ってこられるところはマーリーの強みです。リラックスしたムードの曲はマリファナを吸ってハイになるとはどういうことかを雄弁に語っているようです。

 冒頭の「イージー・スカンキング」のリラックスした雰囲気が強烈なので、全編がラブ&ピース的である気になってきますが、実際には後半に向かうほどに重苦しい雰囲気も漂います。直截なレベルがないからといって明るいばかりではありません。

Kaya / Bob Marley & The Wailers (1978 Island)