ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの最高傑作の呼び声も高い「エクソダス」です。1999年にタイム誌が20世紀最高のアルバムと評したことがよく引き合いに出されます。ただ、マーリーの最高傑作が何かは大きく意見が分かれていますので、おおいに議論を楽しみましょう。

 本作は1977年にロンドンで録音されています。前年の12月にマーリーはキングストンの自宅で襲撃され、マーリーと妻、そしてマネージャーが銃弾を浴びる事件がありました。その事件以降、マーリーはジャマイカを去り、1年以上も戻ることはありませんでした。

 マーリー夫妻は奇跡的に軽傷で済んだとは言え、マネージャーは重傷を受けましたし、ジャマイカの政治抗争に巻き込まれた心の傷はいかばかりだったでしょうか。事件の2日後に腕に銃弾が入ったまま予定されていたコンサートを敢行するタフなマーリーであったとしても。

 腕の傷が癒えたマーリーはわずか2か月後にはウェイラーズの面々とロンドンに集まって、本アルバムの制作に取り掛かっています。メンバーは前作とほぼ同じですが、ギタリストのみアイク&ティナ・ターナーのバックを務めたこともあるジュニア・マーヴィンに交代しました。

 出来あがった作品は英国では8位となり、1年以上もチャートインするという大ヒットになっています。この頃のロンドンはパンクからニュー・ウェイブの時代です。マーリーが英国でデビューした1973年とはレゲエを取り巻く環境が激変していたことが大きいです。

 もともとロンドンのジャマイカ人コミュニティーではレゲエ・バンドが活躍しており、ジョニー・ロットンやクラッシュの面々を始め、パンクの大物たちはデビュー前からそうしたシーンに通っていました。ロンドンの地下には脈々とシーンが根付いていたんです。

 そこにマーリーが正面から登場し、クラプトンのカバーがヒットして、レゲエがオーバーグラウンドに浮上したということだと思います。パンクやニュー・ウェイブとの親和性はもともと極めて高く、ボートラ収録の「パンキー・レゲエ・パーティー」も必然の出来事でした。

 「エクソダス」にはマーリーの代表曲「ワン・ラヴ」が収録されています。レベル・ミュージックとしてのレゲエではなく、ハッピーなレゲエを象徴する名曲をあんな事件の後のアルバムを締めくくる曲にしたことはマーリーの凄さを感じます。メッセージは明快です。

 この曲に先立つ3曲がこれまでのマーリーらしくないラブ・ソングであったことはファンの間に賛否両論を巻き起こしたようです。戦ってもいない私が文句を言う筋合いもないですし、さまざまなレゲエを体現するマーリーですから、こうしたマーリーも大肯定したいと思います。

 タイトル曲「エクソダス」はとにかく力強いです。先立つ曲が徐々に宗教的な情熱を高め、7分に及ぶ凄みのあるこの曲でそれは頂点に達します。典型的なレゲエというよりもファンク色ロック色の強いビートが延々と繰り返され、エクスタシーをもたらします。凄い曲です。

 一方で、ダブ・バージョンやロング・バージョンなどでシングル盤を彩る姿勢は相変わらず尖鋭的です。ダブ・マスター、リー・ペリーの参加も得て、レゲエのサウンド面への興味を広く掻き立てたこともマーリーの功績の一つ。すべてが融合して傑作になりました。

Exodus / Bob Marley & The Wailers (1977 Island)