ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの「ラスタマン・ヴァイブレーション」はついに全米トップ10に食い込む大ヒットを記録しました。英国でも15位となり、その他の国も含めて、一気にマーリーはチャート的な成功を収めることになりました。

 力のこもった作品ばかりを連打してきたウェイラーズですから、ついに来るべき時が来たという感じです。必ずしも、この作品がそれまでの作品と一線を画す特別なアルバムではないところにヒット・チャートというものの性格を感じます。

 本作は初めてのセルフ・プロデュース作品です。ただし、ジャマイカで録音した音源をマイアミでベースのアストン・バレットとミックスしたのはこれまで同様クリス・ブラックウェルです。エンジニアに後にグレース・ジョーンズをプロデュースするアレックス・サドキンが登場しました。

 「ラスタマン・ヴァイブレーション」はマーリーの政治宗教的側面がこれまで以上に色濃く表れたアルバムです。タイトルからして、ジャマイカに根付いたラスタファリアニズム、ラスタファリ運動がいよいよ前面に出てきたことが分かります。

 ラスタファリアニズムでは1975年に亡くなったエチオピアの皇帝ハイレ・セラシエ1世を神の化身とみます。本作収録の「ウォー」は皇帝の有名な演説を歌詞に使っています。マーリーは皇帝への信仰を高らかに宣言しています。

 またマリファナ吸引も重要な儀式と考えられており、本作のジャケット生地はこぼれたマリファナをふき取るのに都合がいいと宣伝されています。ここに歌詞のさまざまなところに出てくる、神ジャーが加わるとラスタの要素がそろいます。

 こうした宗教的心情をくっきりと表しているために、政治的な主張は相変わらず強烈であるものの、距離を意識せざるを得なくなったのも事実です。ただし、もちろんアルバムは統一感を増しました。曲の並びからも主張が伝わってくるようです。

 サウンドは本作も素晴らしいです。アイランド・レコードによるレゲエ普及運動は功を奏し、欧米の聴衆もレゲエを受け入れる準備ができました。それにウェイラーズも欧米でのツアーを経て自然とツボを押さえることができています。たとえばアメリカ人二人によるギター。

 本作に収録されている曲のうち、マーリーのクラシックとなったのは強いて言えば、ラジオ・フレンドリーな「ルーツ・ロック・レゲエ」くらいです。突出した曲というよりも、アルバム全体の凄みのあるレゲエ・サウンドが本作品の魅力でしょう。

 その「ルーツ・ロック・レゲエ」のシングルはB面にダブ・バージョンが収録されています。リー・ペリーとの共作「ジャー・リヴ」も同様です。いずれもボートラですが、尖鋭的なサウンドにはしびれます。ダブが世界のポピュラー音楽に与えた影響は計り知れません。

 マーリーのジャマイカとの関係はラスタファリ運動へのコミットが強くなればなるほど複雑な政治状況も絡んでどんどんややこしくなっていきます。それを呼び寄せるだけの力強さをこのアルバムが有していたということでしょう。本当に力強い。

Rastaman Vibration / Bob Marley & The Wailers (1976 Island)