ついに長年探し求めていたアルバムが手に入りました。1986年にアナログLPを手放してしまっていたアルバムですが、どうしても聴きたくなった時にCD再発のニュースが入ってきました。しかし、それは再発から数年たった頃のこと。以来ずっと探し求めたCDです。

 この作品はニューヨークの現代音楽畑のアーティスト、ピーター・ゴードンのプロジェクトであるラブ・オブ・ライフ・オーケストラ、通称LOLOによる唯一のフル・アルバムです。発表はインフィデリティ、ノーウェイブ界隈のラスト・アンラスト・ミュージックのレーベルです。

 この会社はDNAやマーズ、アレックス・チルトン、ティーネイジ・ジーザス&ザ・ジャークスなどの作品を発表していました。当時のニューヨークにおけるもっとも先鋭的なレーベルだったと言ってもおかしくはありません。LOLOもその並びにいるわけです。

 CD再発はイタリアのニュー・トーンからで、それ以外には全く再発されていません。メールで何とか入手したいと問い合わせたら、「再プレスの予定なし。中古屋で探してくれ。グッド・ラック!」と返事が返ってきました。以来苦節何年か、ディスク・ユニオンがみつけてくれました。

 いかに私がこのアルバムを好きかということを分かってもらおうと長々と経緯を書いてみました。ならLPを手放すなという話なんですけれども、当時は世の中の流れに浮足立ってしまっていたのでした。CDが時代遅れになりつつある中、今度は正気を保っていたいものです。

 さて、本作品は再発にあたり、同じレーベルから出ていた12インチ・シングル「エクステンディッド・ナイスティーズ」がカップリングされました。デヴィッド・バーンやDNAのアート・リンゼイが参加した話題作ですが、そちらは別途CD化されており、すでにご紹介済です。

 あくまで中心はLOLOによる最初で今のところ最後のアルバム「ジュネーブ」です。派手なゲストもいない、オーケストラ名義ながらわずか5人の精鋭だけによって制作された傑作インストゥルメンタル・アルバムです。

 LOLOはサックスとキーボードのピーター・ゴードンとドラム、パーカッションのデヴィッド・ヴァン・ティーゲムの二人が中心です。プロデュースもこの二人です。加えて、ギターにランディー・ガン、ラリー・ソルツマンの二人、ベースにアル・スコッティで計5人です。

 このアルバムでのLOLOは灰汁のぬけたロックのようなサウンドが身上です。ロックやジャズの「熱い魂」がない。テレビや映画に問題なく使えそうなという意味ではライブラリー・ミュージック的でもあり、二人の畑である現代音楽的でもあります。

 たとえば「ラメント」におけるデヴィッドのドラム・ソロは達者なドラミングながら決して熱くならず、ジャストなリズムのたたずまいが現代音楽です。彼のビートに乗せられるピーターのサックスは時おり中華風ですし、シンセのサウンドもあえてプリミティブにクールです。

 親しみやすいけれども媚びないメロディーとあくまでしゅっとしたリズムは、感情に溺れることなく、緻密に構成された純粋なサウンドをクールに響かせます。ジャンルも時代も軽く超えた不思議なアルバムです。聴いていると心底幸せになります。

Geneva / Love Of Life Orchestra (1980 Infidelity)