ファイヤー・トゥールズことエンジェル・マークロイドによるハウス・マウンテンからの処女作「ドリップ・メンタル」です。ハウス・マウンテンはシカゴのインディー・レーベルで、エクスペリメンタルなサウンドをリリースし続けている熱いレーベルです。

 エンジェルのファイヤー・トゥールズ名義での作品は、これ以前にはデプラヴィティなるレーベルから「イーヴン・ザ・ファイルズ・ウォント・タッチ・ユー」というアルバムがあります。エンジェルのセルフ・リリースのバージョンもありますが、まあこれが2枚目ですかね。

 ハウス・マウンテンとエンジェルの出会いは同じシカゴということからも必然だったのでしょう。エンジェルは本作からはレーベルに腰を落ち着け、コンスタントに作品を発表するようになります。ハウス・マウンテンは仕事も早い良質なレーベルです。

 ジャケット写真はそこはかとなく人の顔を思わせますが、私のツボ・ポイントはCGで描かれたサッカーボールです。その昔、プログラミングを勉強していた際に頑張って作ったレイ・トレーシングによる球体表現です。かなりレトロな雰囲気がします。手作り感が強い。

 ジャケット裏にはライブで演奏するエンジェルのモノクロっぽい写真が掲載されています。青い液体を口から垂らしているように加工されており、エンジェルお得意のデス・メタル・ボーカル・スタイルをビジュアルで見事に表現しています。かっこいいです。

 そしてブックレットには歌詞が印刷されているのですが、これが大文字と小文字を混在させているので読みにくいことこの上ない。何というか、ジャケットとブックレットのセンスがとてもアマチュアっぽいです。そこは萌えポイントでもあって、エンジェルを見る目が優しくなります。

 サウンドの方はエンジェル・マークロイドの真骨頂である折衷主義に貫かれています。フィールド・レコーディングやさまざまな楽器、電子機器によるサウンド、デス・メタルなシャウトするボーカルを組み合わせて、エクスペリメンタルなサウンドを展開しています。

 本作では多彩なゲストも招かれています。ぱっとみて分かったのはブレックファストだけでした。「スピリット・スピット」にて「スポークン・ワード、コンピューター、CDプレイヤーとインターネット」を担当しているブレックファストはエンジェルの猫です。

 ほかのゲストはシカゴのマルチメディア・パフォーミング・アーティストのフォースト・イントゥ・フェミニニティことジル・ロイド・フラナガン他、シカゴ近辺の実験的なアーティストであろうと推測されます。綺麗な声のボーカルが入ったりしてなかなかゲスト効果は高いです。

 ピッチを縦横無尽に操作するヴェイパー・ウェイブ仕様の曲もあれば、まさかのユーロビートが出てきたり、「セクシー・サックス」が映える美しいメロディーのヴァンゲリスのような「?」もあり、後の作品よりも抽象度が低くて素材の主張が強めの面白いサウンドです。

 先日からファイヤー・トゥールズのサウンドにはまってしまっています。アヴァンギャルドでありつつライブラリー・ミュージック的な雰囲気も多分にもちつつ、エモーショナルでもある。エンジェルの美しくもグロテスクでもあるサウンドは明日への活力です。

Drip Mental / Fire-Toolz (2017 Hausu Mountain)