フランク・ザッパ先生のオーディオ・ドキュメンタリー・シリーズ、プロジェクト/オブジェクト・シリーズの一つ「グリージー・ラブ・ソングス」は、分かりやすい言葉にすると、「クルージング・ウィズ・ルーベン&ザ・ジェッツ」のデラックス・エディションです。

 同シリーズにしては控えめなことにCD1枚に収まっています。構成はオリジナル・アルバムがオリジナル通り丸ごと収録された後に、8曲の関連トラックが追加されています。そのうち2つはインタビューですから、アルバム未収録曲は正味6曲です。

 オリジナル・アルバムと簡単に書きましたが、若干複雑です。本作は1980年代のCD化に際してオリジナルの演奏の一部が差し替えられていました。それは1990年代のミックスでもとに戻されたと思っていたのですが、完全ではなかった模様です。

 というのも、本作のノートには、オリジナル1968ヴィニール・ステレオ・ミックスと書かれており、40年間の不明期間を経てようやく登場したのだと書かれています。聴き比べてみると、こちらの方が圧倒的に生々しいように聴こえます。1968年の時代を感じます。

 追加された正味6曲は、「ジェリー・ロール・ガム・ドロップ」のモノ・ミックスとシングル・バージョンでまず2曲。R&Bのクリシェ満載の楽しい楽曲で、「デゼリ」のB面としてシングル・カットされたのでした。アルバムを象徴するキャッチーな名曲です。

 「ノー・ノー・ノー」のロング・バージョンも収録されています。長いとは言っても3分、元が2分半ですから割合としては長いですけれども、十分短いです。同じロング・バージョンでは「スタッフ・アップ・ザ・クラックス」の方が本格的に長いです。

 これは「アンクル・ミート」セッションの時にレコーディングされた別ミックスで、アルバム中唯一先生のギター・ソロを堪能できる曲でしたが、ここではさらにそれが強調されています。少しドゥーワップとは毛色の違う曲でオリジナル作ではアルバムを閉じる曲でした。

 面白いところでは「ラブ・オブ・マイ・ライフ」のごく初期バージョンが挙げられます。こちらは先生のデビュー前、1962年から64年の間に録音されたもので、ボーカルはレイ・コリンズとメアリー・ゴンザレス、どうやらそれ以外はすべて先生の演奏のようです。

 一番驚ろかされたのは「ヴァレリー」です。インタビュー・トラックで、最高のコーラス・グループはムーングロウズだと思うが正確すぎて現実味がないので好きではない、むしろ調子っぱずれのジャッキー&ザ・スターライツの「ヴァレリー」がいい、と語った直後のトラックです。

 後に「バーント・ウィニー・サンドウィッチ」に別バージョンが収録されますが、ここでは何が凄いと言って先生のボーカルが凄い。いつにない熱唱が胸を打ちます。これはカラオケで大好きな曲を魂込めて歌っている状況に近い。こんな先生は見たことがありません。

 妻ゲイルは1968年にフランクと二人でこのアルバムや先生のレコードコレクションに合わせて踊った想い出をライナーに書いています。二人の青春を彩った音楽にリスペクトを捧げるアルバムなのですね。こうした個人的な思い出はとても共感を呼ぶものです。

Greasy Love Songs / Frank Zappa (2010 Zappa)